昨年(2018年)10月に右肘内側側副靱帯の再建術を行ったエンゼルスの大谷翔平は、順調であれば5月ごろにも打者として復帰できる見込みだという。
昨シーズン、大谷は右肘靱帯の損傷が明らかになった後も打者としては出場。後半戦だけでも、188打数54安打で打率は2割8分7厘、15本塁打、39打点を記録した。右肘の靱帯の損傷は、大谷のバッティングには何ら影響を与えていなかったということだろう。
コーリー・シーガーが語る復帰体験
肘の内側側副靱帯手術を受けた野手は多くはないが存在する。最近、手術を受けた野手に、大谷と同じ1994年生まれで、まもなく25歳になるドジャースのコーリー・シーガーがいる。右投げ左打ちの遊撃手で2016年にナ・リーグ新人王を獲得している。
昨年、5月初めに手術をしたシーガーは、ショートから送球ができるかどうかが、復帰のポイントだ。シーガーは手術から約5カ月が経過した10月にスローイングを開始。バッティングに関してはどのような復帰プロセスをたどったのか。2月のスプリングトレーニング期間中に話を聞いた。
――打撃練習はいつから開始したのか。
「スイングを始めたのは1月のはじめ。スイングをして、ティーバッティングなどをしていた」
――コーチの投げるボールを打つようになるのは、スプリングトレーニングの半ばくらいだと思うが、手術から9カ月後ということになるのか?
「もし、オフシーズンがなかったら、これほどの期間だったかどうかは分からない。オフシーズンに慌てる理由は何もないからこの時期になった」
――初めてスイングをした時に不安を感じたか。
「不安やナーバスな気持ちになることはなかった。野球のプレーを再開できることに興奮した。長期間にわたって野球をできなかったのだから。不安はなかった」
――ひじの損傷はバッティングには全く影響ないのか。
「スイングするときに、ひじの痛みに悩まされたことはない。手術する前も手術した後も、スイングには問題ないね」
――大谷もあなたと同じように打者として復帰するには、ひじの手術は問題にならないと思うか。
「手術する前にも彼らスイングすることに問題があったのなら、もしかしたら、何かあるかもしれないけど、僕は手術する前も、後も、問題がない。だから、彼もそうなんじゃないかと思うよ」
手術15選手のうち11選手の長打率が...
ただし、気になるデータも出ている。米国の野球記録ウェブサイトのファングラフスに投稿された記事によると、1984年から2012年まで肘の内側側副靱帯再建術を行った野手の復帰後の打撃成績を調べたところ、手術をした野手15選手のうち11選手の長打率が下がったという。長打率は塁打数÷打数という式で計算する。手術前の平均長打率は.419だったが、手術後の平均長打率は.391だったという。
例えば、NPBの最高長打率は、2013年にヤクルトスワローズにいたバレンティンで.779だった。
15選手のうち11選手の長打率がやや下がったが、逆に上昇した選手もいる。野球殿堂入りを果たしているポール・モリターだ。モリターは27歳だった1984年に手術を受けた。手術以降は三塁手、一塁手、指名打者として出場し、41歳までプレー。通算3319安打を記録している。
手術後に打撃成績を落している選手のほうが多いというデータもあるが、モリターのように手術をひとつの通過点として、さらによりよい選手になっていった例もある。
手術は打撃には影響がないと言うコーリー・シーガー、やや影響があるというデータ、ポール・モリターの実例。打者として復帰する大谷はさらにやや苦しむのか、手術の影響を受けず以前と同様の打撃をするのか、はたまたさらにパワーアップするのか。
(スポーツライター 谷口輝世子)