中国当局が、日本の固定資産税にあたる不動産税の立法化に向けて動き出している。2019年3月の全国人民代表大会(全人代)で、李国強首相は「立法化を着実に進める」と述べ、昨年の「穏当に進める」という表現から踏み込んだ。日本では、税の導入は「不動産バブル崩壊の引き金になりかねない」と気にする向きが多いらしい。けれど、いまやこの新税が必要な時だと私は考えている。
中国大都市の不動産価格はこの10年間に平均で2~3倍上昇し、北京や上海では、不動産は庶民から遠くなった。ハイテク企業が集まり「中国のシリコンバレー」と言われる北京市海淀区では、20年近く前に4~5万元(約66 万円~約83万円)だったマンション価格がいまやその200倍に高騰し、億ションが次々に誕生している現実がある。
人為的に付けられる「地価」
高騰と連動するようにして、不動産税導入の必要性が指摘されてきた。投機の抑制、不動産価格高騰による貧富の差解消のほか、この税が入る地方政府の財政安定をめざすことが狙いとされた。
改めて説明しておくと、土地国有の中国では、「地価」とは、正確には「土地使用権譲渡価格」。おおむね70年の期限付きで、土地を使用できる権利の売却が「不動産を売る」こと。その価格は、開発業者による入札を経て、最終的には地方政府が決める。下げ局面に入ると、地方政府は融資の金利調整などあの手この手の政策を繰り出して、下げ圧力を抑える。いわば人為的な価格なのだ。
このため中国では、1990年代初めに日本のバブルが崩壊した時のような「地価暴落」など、いまのところ起こりようがない構造になっている。
ひっ迫する地方政府の財政
売却収入は売り主である地方政府の大きな財源となり、不動産高騰は政府の懐も大いに潤してきた。目下の大きな問題は、この仕組みが始まって30年余り経ち、全国的に見ても売れる値打ちのある土地がだんだん少なくなってきたこと。そして、「土地依存症」と指摘される財政規律の緩みの結果、多くの地方政府が債務過多に陥ってしまっていることだ。
一方で、2019年には、景気浮揚策として2兆元(約33兆円)という巨額の減税が実施される。地方政府の財政がひっ迫する中、新たな財源を国は考え出さねばならない。こうしたジレンマを打開する切り札として浮上したのが不動産税だ。2017年から進められてきた、全中国の住宅情報オンライン化の完成で、不動産税導入への技術的ハードルも低くなってきている。
全人代法制工作委員会の劉俊臣副主任は、今年3月9日の記者会見で「不動産税の法案作りへの調査を関係者が着実に進めている」と発言。導入に向けて、確かにいくつもの難問がある。たとえば、先の北京・海淀区の億ションについて、税額をどうやって算定するべきか。高騰後の価格を基にするならば、古くからの住人がとうてい納付できない高額となってしまう。
だが、中国経済の構造改革にとって不動産税は不可避であり、導入は時間の問題だと私は考えている。端的に言えば、不動産税によって「暴落」は起こらないものの、税の導入が遅れてしまって、これまで不動産価格を支えてきた地方政府が財政的に支えきれなくなった時、「暴落」は起こりうるのだから。
(在北京ジャーナリスト 陳言)