ついに誕生「総合取引所」の足引っ張る「省益」 金融庁と経産省の綱引きは続く

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   東京証券取引所、大阪証券取引所を傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)と商品先物を扱う東京商品取引所が、10月をめどに経営統合し、証券と商品先物を一体で扱う総合取引所を2020年度までに設立する。

   海外の主要取引所は既に総合取引所となっており、日本も利便性向上で国内外から新たな投資呼び込みを図るが、その道はまだ「多難」だ。

  • 金融庁に「一歩を譲らせた」?経産省(イメージ)
    金融庁に「一歩を譲らせた」?経産省(イメージ)
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赤字が続きながらも独立こだわった東商取

   ここまで来るのは、難産だった。2007年、第1次安倍晋三政権の「骨太の方針」に総合取引所構想が盛り込まれたが、利害が対立して論議は停滞。第2次安倍政権になって2013年に当時の東証と大証が統合してJPXが発足、同年、東京工業品取引所に東京穀物商品取引所の商品が移管され、今の東商取が誕生したが、そこでストップしていた。所管省庁がJPXは金融庁、東商取は経済産業省と農林水産省に分かれ、特に東商取社長を天下りポストとして握る経産省が「抵抗勢力」だった。

   この間、世界の主要な取引所では総合取引所が主流になり、中でも先物市場がその成長を牽引した。一方、東商取は売買の流動性が乏しいことなどから取引高はじり貧で、2009年3月期から10期連続で最終(当期)赤字が続きながらも独立性維持にこだわり、商品ラインアップを広げたいJPXのラブコールを袖にする構図だった。

   ここにきて事態が動いたのは、政府の規制改革推進会議(議長・大田弘子政策研究大学院大学教授)が2018年11月の答申で、2020年度ごろの統合を求めたから。同会議の議論と並行し、JPXと東商取は同10月、統合に向けた協議入りを発表。そして2019年3月28日にようやく、「基本合意」が発表されたわけである。具体的には、JPXが6月に東商取へ株式公開買い付け(TOB)を実施し、10月に子会社化する。条件などを検討し、ようやく合意に達したのだ。

   統合のキーワードである「総合取引所」の眼目はデリバティブだ。JPXでは現在、証券の現物を東証、日経平均先物などのデリバティブを大証が扱う一方、東商取は原油や石油製品、金などの貴金属、穀物など農産品の商品先物を手掛ける。商品先物もデリバティブに含まれ、証券と商品を一体とした幅広いデリバティブを一つの取引所で扱い、利便性を高めて取引量を増やそうというのが、統合の最大の狙いだ。例えば、東証が扱う金の上場投資信託(ETF)と東商取の金先物は値動きが連動する。先物は現物のヘッジに使われるほか、両者の値動きのズレを利用した裁定取引も世界中で行われており、これらを同じ取引所の口座でできるメリットは大きい。というより、一緒にできなければ取引を増やせないのだ。

「アジアで最も選ばれる市場」目指したいが...

   統合の姿は、大証と東商取が合体してデリバティブを一元化できるのが「理想」(JPX関係者)だが、実際にはそうきれいにはいかないようだ。東商取から貴金属、農産物の先物を大証に移管するが、東商取は存続し、原油を残したうえで新たに電力と液化天然ガス(LNG)の先物を上場して、「総合エネルギー市場」として再出発させるという。経産省のシナリオに沿った形で、「電力自由化で電気と発電燃料の価格変動を先物でうまく吸収する意味は大きい」(経産省筋)のはその通りだ。ただ、東証には原油ETFもあり、これと原油先物の裁定取引などを考えると、同じJPX傘下とはいえ別市場で扱うのは不合理だが、今回は経産省の主張が通った。「金融庁が一歩譲って、とにもかくにもJPX内に取り込むのを優先した」(大手紙経済部デスク)のだ。

   JPXの2018年のデリバティブの売買高は世界の主要取引所のなかで16位、首位のシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の10分の1以下に沈んでいる。ここから、「アジアで最も選ばれる市場」(JPX幹部)にのし上がっていく上で「省庁の権益がこれ以上、障害となってはならない」(日経新聞3月30日社説)と分かってはいても、既得権はなかなか手放せないということか。

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