全国で相次ぐ「保育士大量退職」 園新設に供給追い付かず...「取り合いみたいな状況」運営会社も苦渋

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   東京・中央区の認可保育園で保育士が大量退職することが分かったのは、ツイッター上での騒ぎがきっかけだった。

   同様のケースが全国各地で起きていることが、その後のJ-CASTニュースの取材で分かった。その背景には、政府の場当たり的な政策の影響があることも浮き彫りになっている。

  • 保育士不足が深刻だが…(写真はイメージ)
    保育士不足が深刻だが…(写真はイメージ)
  • 保育士不足が深刻だが…(写真はイメージ)

目黒区の保育園で5人中4人、ボーナスなど認識違いで

   中央区の保育園では、運営会社が変わってからの待遇悪化や長時間労働があったとして、保育士18人のうち13人が2019年3月以降に退職や契約満了などでいなくなる見通しになった。区では、大量退職で保育の質が下がる恐れがあるとして、区の基準以上の保育士を配置したりすることなどを求めている。

   この動きを知って、ツイッター上などでは、同様のケースがあるという投稿が相次いでおり、J-CASTニュースが読者からの情報提供などを元に調べたところ、全国でほかに3つの保育園で大量退職が起きていた。

   都内では、目黒区の認可保育園「学栄ナーサリー 八雲保育園」で保育士5人中4人が3月末までに退職、あるいは退職予定になった。

   区の保育課によると、辞める理由としては、ボーナス支給や夏休み取得などに運営会社との認識の違いがあった、会社の考え方に納得がいかなかった、などがある。

   八雲保育園では、16年と18年も大量退職が起きている。保育課は、理由は把握していないというが、「保育士が一斉に辞めると子供への影響が大きい」として、安定運営に努めるようその都度指導してきた。

   今回は、保育士の資格がない園長が1月から暫定的に就任して保護者に不安が広がり、「運営は大丈夫なのか」と区にも電話が数件かかってきた。区では、保育士についてすぐに欠員を穴埋めし、配置を守るように、2月末から繰り返し指導し、「補充は終わり、現在は問題なく運営している」としている。

   区内では、保育士が大量退職したケースは、最近はこの保育園しか聞いていないという。

人材紹介会社への不満も

   八雲保育園を運営する学栄は、ボーナス支給や夏休み取得で保育士側と認識に食い違いがあったことを広報担当者が取材に認めた。残業は、1か月に4、5時間ほどで、常識の範囲内だったとしている。

「保育士の募集に当たって、人材紹介会社を使っていますが、間に入ると、言った言わない、といった話になるようです。勘違いが起こらないように、ないことをあると言わないようにお願いするなどの対策をしています。都内に保育園がどんどん作られて、保育士の取り合いみたいな状況になっています。16年と18年も、新しいところにたくさん人を持っていかれるなどして、非常に困りました。しかし、利用者に不安を与えてしまう結果になって申し訳なく、このようなことがないように安定雇用に努力したいと思っています」

   保育所の新設が相次いで、保育士の流出が続く状況は、全国各地であるようだ。

   仙台市では、認可保育園「パリス将監西保育園」が2018年4月に市立だったのが民営化されてから、職員20人ほどのうち保育士7、8人を含めて約10人が19年3月までに順次退職していることが分かった。

   保育園を運営する山形県内の社会福祉法人みらいでは、シフト制で人手不足から一部で残業も多く、ボーナスなどの給与条件が不満で辞めた人が多いと取材に明かしつつも、こう現状を訴えた。

「保育士の売り手市場で、人材の引き抜きが多くて困っています。人材紹介会社を通じて何人も採用しましたが、定着がよくないわけです。紹介会社が、うちとは違う高い給与条件を応募者に示しているのも不満の原因になっています。保育士の中には、1か月で辞めてしまう無責任な人も一部でいて、保育現場は荒れていますね」

   市の環境整備課は、約10人が退職した理由としては、自己都合や家庭の事情が多く、待遇や長時間労働への不満については把握していないと取材に答えた。同課では、余裕ある配置をして保育士の定着を図るように指導しているというが、保育士はその都度補充されているため、安定保育のうえで問題はないとしている。

   ただ、市内で保育士などが半数ほども辞めたケースは、ほかには聞かないという。

問題化した中央区の保育園、対応は...

   13人が退職などする見通しの東京・中央区の認可保育園は、ニチイ学館が2019年4月から直接運営することになっているが、大量退職とも言える現象は、同社運営のほかの保育園でも起きていた。

   札幌市の施設運営課に取材したところでは、認可保育園「ニチイキッズさっぽろ保育園」で、3月以降に保育士12人のうち4人が退職する予定になっている。調理員らを含めると、職員15人のうち6人が退職見込みだ。

   退職理由については、待遇に不満を持つ人もいたが、転職や夫の転勤など個人の都合がほとんどとの認識をニチイ側が持っているとした。退職後の補充はすでに決まっており、市の基準は満たすという。市では、数人が辞めることはよくあることで、対応の必要性を感じないため、ニチイ側を指導する予定はないとしている。

   一方、保育園関係者は、中央区の保育園と似た状況だとし、基本給の額などについてニチイ側と食い違いがあったと指摘している。

   このほか、市によると、認可保育園「ニチイキッズ大通り西18丁目保育園」でも、保育士10人中2人、調理師らを含めると職員13人中3人が3月で退職する予定。退職理由も、さっぽろ保育園と同様だという。

   ニチイ学館の広報課は、個別の保育園については回答を差し控えたいと取材に答えたものの、「小規模の保育園は、保育士などの配置が少なく、移動や退職が2、3人出れば、全体の半数ぐらいになることもあります」とした。退職理由についても、個別の回答を差し控えたいという。そのうえで、「退職の意向を事前にヒアリングして、早い段階に補充できるようにしています。コミュニケーションを密にして、保護者の不安払しょくにも努めていきます」と言っている。

   中央区の保育園については、4月から保育士を2人増やして20人体制にし、常勤も8人から13人にすることを決めたと取材に明らかにした。保護者会が3月21日に開かれ、こうした体制が理解できるように説明したとしている。

厚労省は「保育需要が増えている」

   保育士大量退職の背景には、国などの音頭でここ数年、全国規模で保育園の数を増やしていることがあるようだ。

   国は、「待機児童解消加速化プラン」を策定し、2017年度末までの5年間で50万人以上の保育の受け皿を拡大し、政府目標を達成したとしている。さらに、その後の「子育て安心プラン」では、20年度末までに30万人以上の受け皿を用意したい考えだ。

   ところが、この5年間で受け皿は増えたものの、保育士の数はそれに追い付いていない状況になっている。

   厚労省の統計によると、保育園などの受け皿は、17年までの5年間で4割ほども増え、約3万3000施設にもなった。一方で、保育士や保育教諭の数は、2割ほどの伸びに留まり、17年現在では約42万人になっている。

   保育士の取り合い状態が続いている背景には、急激な保育園の増加に保育士の供給が追い付いていない現状がある。その結果、保育士の待遇や労働環境の悪さがクローズアップされ、大量退職に結び付く皮肉な現象が起きているようだ。

   保育士などの不足状態について、厚労省の保育課は3月26日、次のように取材に説明した。

「待遇などが悪い理由もあることは否定しませんが、保育需要が増えていることが大きいと考えています。今後は、処遇改善のほか、新規資格者を増やしたり、離職者の再就職を進めたりするなどして、さらに増やしていきたい」

(J-CASTニュース編集部 野口博之)

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