福島第一原発の事故の事実と廃炉作業の現状を伝える
「原発に携わる人たちが集まる町」と渡辺さんが表現した富岡町。そこに2018年11月30日、「東京電力廃炉資料館」がオープンした。福島第一原発の事故の事実と廃炉作業の現状を広く知ってもらおうという趣旨だ。同館の嶋津康館長が案内した。
館内は1階と2階に分かれている。最初に、大型スクリーンが設置された2階の「シアターホール」へ案内された。事故当時の様子を8分ほどの再現映像で振り返る。津波による全電源喪失、その後に起こる原子炉内の核燃料メルトダウン。訓練では想定していなかった事態が次々と発生したとの説明で、東電では「安全に対するおごりと過信があった」と自己分析している。
各コーナーでは、事故発生から対応の様子を、AR(拡張現実)を使って時系列で紹介したり、大型パネルに事故の経緯を詳細に記載したり、モニターを通して「なぜ安全は万全でなかったのか」を説明したりと工夫がみられる。
1階の展示物では「廃炉現場の姿」がテーマ。福島第一原発構内の規模を来館者に感じてもらうため大きな3面のLEDパネルで表現、また「汚染水」対策の解説用に構内のジオラマを制作して、「取り除く」「漏らさない」「近づけない」という対策3か条を徹底している様子を、プロジェクションマッピングを活用して説明する。たとえば山側から海側に流れる地下水の様子が映像としてジオラマ上に表示され、その対策に使われる各設備が点滅する仕組みだ。原子炉内を調査するロボットの展示もある。
来館者は、開館から3か月あまりの3月5日に1万人に達した。海外からも約150人が訪れている。展示物にはすべて英語の表記やナレーションを付けており、同館の嶋津館長は、「地元の人に加えて国内外の人にも、広く事故の記録、廃炉の事実を伝えたい」「原発事故は決して天災として片づけてはいけない、人知を尽くした事前の備えが必要だったと今、強く思っております」と話す。東電は、事故の根本原因に(1)過酷事故対策の不備(2)津波対策の不備(3)事故対策の準備不足、を挙げ、原因の背後に(1)安全意識の不足(2)技術力の不足(3)対話力の不足、があったととらえている。
廃炉資料館は、事故の事実と廃炉の進ちょくを多くの人に伝えるとともに、二度とこのような事故を起こさないための反省と教訓を社内外に伝承し、安全につなげていくことが使命。一方で地元の学校の教員に意見を求め、次世代に向けてどう伝えていくか検討している。
富岡町に避難先から町に戻ってきた住民は、現段階では少ない。廃炉資料館では、福島県が2020年、双葉町に開館を予定している「東日本大震災・原子力災害アーカイブ拠点施設」と連携して、学びや研究といった場となって交流を促進していきたい考えもあるようだ。原発事故や廃炉の現状を学ぼうと、こうした施設への訪問者が増えれば、富岡町に活気をもたらすひとつのきっかけになる可能性はある。