東京・JR新橋駅の烏森口を出て間もない桜田公園のそばにある日本料理店「ピアシス」。この店の特徴は何といっても、置いてある日本酒の全てが福島県産という点だ。
東日本大震災の衝撃が色濃く残る2011年11月から、「福島酒援・食援」と銘打ち、福島県を支援する姿勢を貫き、営業を続けている。日本酒に合わせ、食材の多くも福島産をそろえてメニュー作りに励んできた。高品質な素材から生まれる上質な料理を堪能すべく、訪れる客は後を絶たず、連日、「満員御礼」の状態が続いている。
日本酒では金賞の数が6年連続最多の福島県
「福島県民の皆さんですら、なかなか手に入れられないお酒もあるんですよ」と、自信を見せるのは、店長の田中葉子さん。
ピアシス新橋店で店長を務める田中葉子さん
店内のカウンター付近には、インターナショナルワインチャレンジで2018年のチャンピオンに輝いた「奥の松・あだたら吟醸」や、2015年のチャンピオンに輝いた「会津ほまれ播州山田錦純米大吟醸」をはじめ、約70種類の自慢の酒が所狭しと並ぶ。福島県公認の「福島酒アンバサダー」の称号を持つ田中さんは、震災から半年後となる2011年9月に福島県内にある酒屋を視察。その際に、酒屋の従業員の言葉に心を打たれたという。
「東京電力福島第一原子力発電所から30キロメートル圏内にある福島県広野町にある酒屋を訪問しました。その際、被災された酒屋の女将さんが『賠償金はあっても、自分たちの力で代々伝わる酒屋を続けたい』と強く願っていることを知りました。そこで、我々に何が出来るかということを考えた結果、この酒屋から福島産の酒を買うことにしたんです」
福島の酒の長所を田中さんに聞くと、「味の良さはもちろん、作っている人の良さが出ていると思います」という言葉が返ってきた。
店長自慢の福島の日本酒。真ん中は2015年インターナショナルワインチャレンジでチャンピオン輝いた「会津ほまれ」醸造の播州山田錦純米大吟醸
福島県の日本酒は2013年~18年にかけて、6年連続で全国新酒鑑評会で金賞受賞数が日本最多となっているが、その金賞についても、田中さんの口からは仕込みの現場を見てきた人ならではの感想が飛び出した。
「蔵元を回っていると、皆さん、本当に酒造りが好きで、『好きでやっていたら、たまたま金賞を取っちゃった』という感じの蔵元すらあります。ゆえに、商売下手な感じはします(笑)。商業的なことはあまり気にせず、『良い酒なのでどんどん飲んでくれ』という思いを強く感じました」