韓国と北朝鮮との間にただよっていた融和ムードも「今は昔」のようだ。最近になって、北朝鮮メディアが韓国を批判する記事を相次いで掲載しており、そこに使われている言葉も「自尊心に欠ける」「恥ずべき発言」「無責任」といった厳しいものだ。
北朝鮮の主張は、韓国と北朝鮮の問題に米国が関与することを批判する内容で、露骨に文在寅(ムン・ジェイン)政権に揺さぶりをかけている。
「恥ずべき発言」と青瓦台高官にプレッシャー
AP通信などによると、崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官が2019年3月15日に海外メディアや平壌駐在の大使を対象に行った記者会見で、米国に対して「譲歩するつもりはない」と発言。非核化の道のりが厳しいことが改めて明らかになった。崔氏は続けて、文大統領は米朝対話の実現に努力してきた、としながらも、韓国は米国の同盟国であることから「調停者ではなくプレーヤー」だと突き放した。米朝会談を実現するにあたって「仲介者」を自任してきた韓国にとっては、はしごを外された形だ。
北朝鮮はこれに加えて、米韓の間にくさびを打ち込もうとするような論調を鮮明にしている。それが一番顕著なのが、北朝鮮の宣伝機関「祖国平和統一委員会」が運営するウェブサイト「わが民族同士」の記事だ。
3月25日付の記事では、韓国大統領府(青瓦台)の高官が、開城工業団地の再稼働をはじめとする南北経済協力事業について「国連制裁の枠組みの中で検討し、米国とも協議する」などと述べたことがやり玉にあがった。記事によると、この高官の発言は「実に初歩的な自尊心さえ欠けている恥ずべき発言」で「北南合意の精神にも反する無責任な行動」。
その上で、
「北と南が向かい合って合意して果敢に実践すれば十分で、ここで外勢との『協調』が必要なものがあるのか」
などと主張し、米国を念頭に「外勢」の関与を非難した。3月27日付の記事でも、
「今は外勢の顔色を見ながら優柔不断し体面を維持する時ではない」
などと繰り返した。
北朝鮮としては、外貨獲得につながる南北経済協力事業を早期に進める狙いがあるとみられるが、開城工業団地は国連安保理が17年に採択した制裁の対象だ。韓国が独自に経済協力を進めれば制裁違反になる可能性が高く、国際社会から非難を受けるのは確実だ。
「金剛山と開城工業団地に言及するならワシントンに来るな」
米韓関係にもすき間が吹く。中央日報が韓国側消息筋の話として伝えたところによると、米国務省の官僚は韓国側に
「金剛山(クムガンサン)観光再開と開城工業団地再稼働問題を言及するつもりなら(ワシントンに)来ないでもらいたい」
と伝えたという。この発言は、北朝鮮政策に傾倒する韓国側に対して、米国側の警戒感を示すエピソードだと受け止められている。
18年9月に平壌で行われた南北首脳会談では、「近いうち」に金正恩・朝鮮労働党委員長がソウルを訪問することで合意している。韓国側が正恩氏の訪韓実現に前のめりになれば、さらに米韓同盟は危うくなるおそれがある。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)