「虐待の通告数が多いことを『ワースト』と言ってはいけません」――。児童虐待をめぐる児童精神科医の呼びかけが、SNS上で広く拡散されている。
メディアの報道姿勢に一石を投じた形となり、「本当にその通りだと思う」「この視点は大事」と賛同を集めている。
「子供虐待通告、大阪が4年連続全国ワースト」
呼びかけは、ツイッターで2019年3月22日に行われた。
産経新聞の18年3月9日付記事「子供虐待通告、大阪が4年連続全国ワースト 最多の9305人、府警まとめ」を引用し、
「虐待の通告数が多いことを『ワースト』と言ってはいけません。市民の皆様が虐待の疑いを見逃さず、勇気を持って通告した数が全国一なのです。そして、この大量の通告に大阪児相(児童相談所)がよく対応しておられると評価しないと。虐待通告数を低く出すために虐待と認定しないようになる自治体が出たら地獄ですよ」
と投稿した。すると4万近くの「いいね」を集め、共感の声が寄せられた。
産経の記事では、児童虐待の疑いがあるとして大阪府警が児童相談所に通告した18歳未満の子どもは、2017年に1万1119人で、4年連続で全国最多だったと伝えている。その上で通告の内容や摘発件数、府警の対応を紹介している。
もっとも産経に限らず、児童虐待の通告数の多さを悲観的に伝えるメディアは少なくない。
「児童虐待、最多の4290人 昨年、全国ワースト2 /神奈川県」(朝日新聞)
「児童虐待ワースト2 処理件数821件 昨年度の道内速報値=北海道」(読売新聞)
「18年児童虐待414件 県警対応件数、3年連続で最悪更新」(大分合同新聞)
別の専門家も「ワースト」を疑問視
投稿者の児童精神科医はJ-CASTニュースの取材に、「通告数が多いという事実はともかく、良い・悪いと表現するのは違和感がある。大阪がまるでひどい地域だという印象を与える」と改めて訴える。
また、「そもそも大阪の人口は全国で3番目に多く、人口比ならまだしも件数で比較するのは不適切ではないか」と通告数単位で自治体を比較する方法を疑問視した。
「一番危惧するのは、ネガティブに書かれると自治体の評価が悪くなると考え、一部の通告を受理しない自治体が出てくることだ」(前・児童精神科医)
厚生労働省の「子ども虐待対応の手引き」では、「虐待が疑われる事例や、将来虐待にいたる可能性の高い事例等も、児童相談所や市町村が相談や情報提供等を受けたことをもって通告として受理する」とある。
子どもの虐待防止に詳しい花園大学の和田一郎准教授(子ども家庭福祉)も、「通告数が多いのは必ずしも悪いとはいえない。市民の意識が高いともいえる」と児童精神科医の主張に同意する。
「通告数が多い背景を分析したり、通告された子どもを行政がしっかり対応できていれば少なくなるはずの再通告率を調べたりした上で評価するならわかるが、そうでないのに『ワースト』と使うのはおかしい」(和田准教授)
(J-CASTニュース編集部 谷本陵)