「脂がやわらかくて、あっさりしています。とにかく、一度お召し上がりください。おいしいですから」――。東京・渋谷の東急百貨店東横店のデパ地下に店を構える「精肉あづま」(セントラルフーズ)の店長、篠田宜昭さんは「福島牛」を、そう薦める。
あの東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故から8年が経とうというのに、福島県の畜産物は風評被害などの影響で、いまだに売り上げが思うように伸びずにいるなか、「応援したいという気持ちはもちろんですが、やはり何よりおいしいですから」と、「福島牛フェア」で店長自らが売り込む「福島牛」のよさを聞いた。
「やはり、おいしさに尽きます」篠田宜昭店長がオススメ!
赤身に適度な脂があり食欲をかきたてる
黒毛和牛、赤身にほどよい脂がいい
「東急フードショー」(東急百貨店東横店地下1Fの食品売り場)に入るエスカレータを下りると、その正面に「精肉あづま」が目に飛び込んでくる。
渋谷駅に隣接するデパ地下には、東急百貨店本店裏の高級住宅街・松濤や、目黒や世田谷に住む「食通」が仕事帰りに立ち寄ったり、週末にわざわざ訪ねてはまとめ買いしたりする。創業して60余年、この地で質の高い、おいしい肉を販売してきた。
店長の篠田宜昭さんは、
「やはりお年を召された方は赤身のとくに柔らかい部位がお好みですね。若い方はサーロインとか、カルビとかを好まれますけど。それでも上質の肉の場合、赤身を食べてもほどよく脂の味を楽しめますので、若い方でも赤身は好まれると思いますね。
もちろん、福島牛もそうです。黒毛和牛で、赤身といってもほどよい脂がのってきます。食べやすさと旨味とがちょうどいいんです」
と言って笑う。
福島牛フェアで「復興支援」(東急百貨店東横店東急フードショーの「精肉あづま」)
「福島牛フェア」のきっかけは「復興支援」にあるが、篠田さんは福島への思いを、言葉を選ぶようにこう話す。
「これまでは『福島産』というだけで避けられていた時期もありましたが、それが風評被害であったとは思います。しかし、今まで取り扱ってこなかったという事実もあります。お客様からは、たとえば挽き肉などは原産国表示で販売しますので、産地を聞かれることがありました。四国産とか九州産とか、あるいは北海道産であるとか。要は(福島県から)遠く離れた地域のほうが、『安全・安心』との思いがお客様は強かったと思います」
百貨店は信用を重んじる。
「お年を召された方は、『自分たちはいいのだけれど、孫に食べさせるには心配』と、産地を気にされていました。反対に、比較的若い世代の方に産地を聞かれることはほとんどありませんが、それでも小さいお子さんがいらっしゃる女性は気にされます。お子さんの口に入るので気を遣われるようです。産地に敏感な方は8年経った今でも、少なくはなりましたがいらっしゃいます。でも、それも現実なんです」
慎重にならざるを得ないと理解していても、その半面でもどかしい思いが交錯していた。