受動喫煙など喫煙にまつわる諸問題が社会問題化している。全国的に喫煙者は減少の傾向にあるが、かつて多くの喫煙者がいたプロ野球界でも喫煙者は確実に減っている。その一方で、いまだ主力選手の中で喫煙者が存在することも確かで、巨人の原辰徳監督(60)が昨2018年10月の監督就任会見で、巨人の若き主砲・岡本和真内野手(22)に禁煙を勧めたことで岡本が喫煙者だということが判明した。
プロスポーツ選手の喫煙者は、職業の性質上少ないが、プロ野球選手は例外的に喫煙者が多かった。ポジションに限らず、2000年代初頭まではかなりの数の喫煙者がいたという。プロ野球選手はある種、子供たちに夢を売る商売でもあるため、教育上良くないとして、メディアは選手の喫煙に関する報道を自粛してきた節がある。選手本人から喫煙者であることを語られることはなく、選手の喫煙に触れた原監督のポロリ事件は関係者の間で大いに話題になった。
「タバコは本当に体に悪いのか?」
在京球団で通訳を務めた経験を持つ関係者によると、2000年代初頭までに米国から来日した元MLB投手は、必ずといっていいほど日本の投手の喫煙事情に驚くという。当時は練習の合間や、試合中の屋内練習場、ブルペンで喫煙する投手が多くみられたという。MLBプレーヤーにおいて喫煙者は皆無に等しく、プロ野球選手が喫煙者というだけでもショックを受けたという。
さらに元MLB投手を驚かせたのが、日本人投手の練習だ。喫煙者ながらハードな練習をきっちりこなし、ランニングでは圧倒的な走力で元MLB投手をぶっちぎる。この驚異的な光景に多くの元MLB投手が「日本の選手はタバコを吸うのに何であんなにスタミナがあるんだ」と目を見開き、「タバコは本当に体に悪いのか?」と真顔で問いかけてくる者もいたという。
以前、日本初のプロボクシング世界王者となった、今は亡き白井義男さんを取材した際に、タバコに関する面白いエピソードを聞いた。白井さんはGHQ職員の生物学者アルビン・R・カーン氏にその才能を見出され、同氏の指導のもと世界王座を獲得。白井さんによると、現役時代、驚くことにカーン氏から喫煙を勧められたという。カーン氏が白井さんに喫煙を勧めた理由は、タバコの煙に慣らすためだった。
カーン氏が白井さんにタバコを勧めた真意は...
白井さんがリングに上がっていた1940年代後半から50年代にかけて、ボクシングの試合場は喫煙可能で、喫煙者はおのおの観客席でタバコをくゆらせていた。そのため試合会場が紫煙に包まれることもあり、リング上でもタバコの煙が漂っていたという。非喫煙者にとってタバコの煙が見えない敵となるケースもあり、煙対策としてカーン氏は白井氏に喫煙を勧めたという。ただ、カーン氏が勧めたのは本格的な喫煙ではなく、吹かす程度に留めろというものだった。
白井さんのケースは例外中の例外で、指導者が選手に喫煙を勧めたということはこれ以外に聞いたことがない。プロ野球選手においても、原監督のようなポロリ事件がない限り喫煙が表面化することはまずないだろう。ただ、原監督の場合、岡本の喫煙をあえてメディアの前で公言したことで、チーム内のその他の喫煙者をけん制したとの見方もあり、今後、本格的な禁煙令が下される可能性もありそうだ。