実業団の存在と練習量の減少
日本女子マラソンの低迷のひとつの要因とされるのが、実業団の存在である。マラソン選手の多くが実業団に所属し、マラソンの他に駅伝を兼ねている。実業団のメインは駅伝となり、駅伝で結果を出すことが最大の目的となる。表現的には駅伝を兼ねるというよりも、マラソンを兼ねるというほうが的確かもしれない。実際、マラソンに専念できる環境にいる選手はほとんどいないのが現状である。
女子駅伝は男子とは異なり、その多くのレースが最長区間約10キロ程度。したがって駅伝練習はスタミナよりもスピードが重視され、トラックでの練習が多くなる。また、近年の実業団は経済的に多くの選手を抱えることが困難なため少数精鋭の傾向にあり、練習でひとりでもケガ人が出れば駅伝のチームを組めない事態も起こりうる。これを防ぐために練習量を減らすチームが増えているという。
マラソンレースを控える選手は、期間限定で駅伝練習とは別メニューをこなす。特別に合宿を張る選手もいるが、一年を通してマラソンに専念しているわけではないので練習量は限定的なものになる。ただでさえ通常の練習量が減少の傾向にあるだけに、マラソン選手の練習量は減少の一途とたどっている。高橋尚子さんは、かつて新聞紙上で近年の女子マラソン選手の練習量について「私の時代と比べて、格段に減っていると思います」と指摘。マラソン関係者の間では、練習量の減少が女子マラソン低迷の大きな要因とする意見が根強い。
女子マラソンの世界最高記録は、ポーラ・ラドクリフ(英国)が2003年4月に樹立した2時間15分25秒。この記録が16年間更新されていないことからも分かるように、世界的にみて大幅に記録が伸びているわけではない。事実、世界歴代2位は2時間17分01秒と、1分30秒以上の開きがある。世界歴代2位と日本記録を比べると、その差は2分11秒で、決して手が届かないタイムではない。
かつての「マラソン王国」を取り戻すために必要なものは、マラソンに専念できる環境を選手に提供することに他ならない。企業スポーツが抱える課題に直面している日本の女子マラソン。東京五輪女子マラソンは2020年8月2日に号砲が鳴る。