「とっくに復興しているだろう」思いこむ人の多さ
バルセロナとのつながりは、偶然から生まれた。当時現地に住んでいた友人を2018年8月、私的に訪ねた。友人は、「自分が帰国した後も人脈ができるように」と、いろいろな人を紹介してくれた。そのひとりが今年の「祈りの手紙」に協力するデザイナー、つのだひろしさん(44)だった。
2000年からバルセロナを拠点に活動するつのださんは、東日本大震災をきっかけに現地の日本人に声をかけ、2012年3月に団体「KOREKARA JAPON」(コレカラハポン)を立ち上げ、毎年3月に震災にまつわるイベントを開催している。
それでも年月とともに、「遠い日本」で起きた過去の震災への関心が薄れてきている。またスペインの人々の、こんな「思い込み」もあるようだ。
「日本のことだから、(被災地は)とっくに復興しているだろう、問題は解決しているはずだ、と思っている人が多いのです」
実際は――。つのださんは一時帰国するたびに東北を巡る。完全復興からはほど遠い被災地が目に入る。その姿がバルセロナでは伝わっていないと、もどかしさを抱えていた。
横山さんとつのださんは、会話の中でお互いの活動を共有し「何か一緒にやろう」との思いを強くした。横山さんが帰国した後もやり取りを重ね、「祈りの手紙」をバルセロナで紹介する企画が固まった。
日本人若手デザイナーが、自然災害をテーマに制作した作品を披露する「モンスター展」。その会場にスペースを設け、手紙をスペイン語に訳して展示するのだ。バルセロナの日本人留学生がボランティアで翻訳作業にあたった。今年は2回行われる「モンスター展」、2月中旬にスタートした1回目では、昨年の手紙を使用した。訪れた人の中には手紙の内容から、福島をはじめ震災被災地の現状を読み取り「まだ問題は解決していなかったのか」と驚く様子が見てとれたという。