2019年3月に入ってから、中国のIT企業でのリストラが一層顕著になっている。人減らしやボーナス取消しで、IT分野で働く人たちの意気は上がらず、戦々恐々の空気も広がる。「前例がないほどの規模」と呼ばれる今回のリストラ旋風は、中国ITの急成長のひずみを浮かび上がらせた。
初任給もガタンと落ちる
2018年下半期から徐々に始まり、19年の春節前後に大きくなったこの動きは、テクノロジー業界を代表するBATと呼ばれる3社(バイドゥ、アリババ、テンセント)にとどまらず、その次の座にある、生活関連サイトを運営する「美団点評」、配車サービスの「滴滴出行」にも及ぶ。
今年7月にIT分野で博士号を取得する予定の張君(27)はいま就活中。年間給与目標を50万元(約834万円)に置いていたが、30万元(約500万円)に落とした。「昨年の卒業生は50万元取れたが、今年の就職事情は良くない。ガタンと落とさざるを得ない」と淡々と話す。
ここ何年間かの中国でのIT急成長の時代、学校で専門知識を学んだだけで実務経験もほぼゼロの若者ですら、他業界よりずっと高い初任給を得ていた。そして、こうした若者たちをターゲットとして狙うビジネスもあった。「なぜあなたのサラリーはほかの人より高くないの?」、「すぐマネージャーになるための秘訣」といったうたい文句で募った「研修」や「通信教育」を、若者たちは決して安くない費用を払って受講したものだ。
しかし高収入も、ロケットのような昇進も、すっかり過去のものとなってしまった観がある。いまやバイドゥ(百度)で、「リストラ」を検索すると、まずバイドゥ自身のリストラ状況が掲示され、次にアリババ、そしてテンセントの状況が示される。アリババのライバルといえるEC最大手、京東集団が春節後に、「高級幹部10%削減」を打ち出したことも大きな話題を呼んだ。
解雇に怒って抗議の動きも
日本の読者になじみが薄いだろうオンライン中古車販売会社「人人車(レンレンチャー)」のリストラは、解雇された従業員が各地の支店で賃金未払いなどに抗議する騒ぎになっている。従業員が一挙に4分の1の規模に減らされた成都(四川省)支店では、玄関に「金を返せ」などの張り紙が一斉に張られ、北京支店の従業員たちは本社に赴いて、「解雇についての説明」を集団で求めた。
こんな騒動がなぜ起こるのか。大きな市場のあまりの急拡大に、雇用をはじめとする経営手法がとても追いつかなかったからだ。
中国自動車流通協会の統計によると、2017年の中古車販売台数は1240万9000台に達し前年より19.4%増加。 ちなみに日本の数字は386万台、前年比2%増だった。「人人車」の経営者は巨大市場がさらに膨らむ潮目を読み、増員などの投資を急増させた。それは中国IT企業のふつうの行動だ。うまく嵌ればその企業は急成長する。けれど逆に、過当競争や景気の変化で利益がほとんど出ない事態も起こり、経営が悪化すると短絡的にリストラに走ることになってしまった。「人人車」の騒動は、若い企業がその経営の未成熟さをさらけ出した結果といえる。
こうした経営の問題点について、「大きく成長した中国のIT関連企業は、アリババ以外ほぼ同じ状況だ」と、「美団点評」創業者の王彗文氏自身、ある取材に対してコメントした。王氏は「美団も同じ状況」と率直に認めている。
米国から帰国して、IT企業の高級幹部として迎えられた私の知人もこう話してくれた。
「業界が市場の追い風の中にある時、個々の企業組織は往々にしてぼろぼろ。いつも強気でも問題ないからね。従業員の増員や賃上げ、上場。みんな、そんな強気の結果だよ」
吹き始めた経営の逆風を、若い経営者たちがどう乗り越えるか。企業組織として果たして成熟できるか。そこがいま最も注目すべきところだ。
(在北京ジャーナリスト 陳言)