路線バス運行中に運転士が携帯電話を使用したため行政処分を受けたとして、奈良交通(奈良市)が公式サイト上で利用者らに向けてお詫び文を掲載したが、インターネット上では「何か切ない」と同情的な声もあがっている。
運転士が携帯電話を使用した背景に、利用客への「気遣い」があったと見られるためだ。
発車後「多くのお客様がバスのりばでお待ちであった」ため連絡
奈良交通は2019年2月28日、国土交通省近畿運輸局から「のべ10日間の事業用自動車使用停止処分」を受けたと発表し、「ご利用のお客様をはじめ関係の皆様に多大なご迷惑とご心配をおかけいたしましたことを深くお詫び申しあげます」と謝罪した。
発表によると、処分の原因となった運行中の携帯電話使用は18年8月25日にあった。運転士は朝の9時15分ごろ、平城団地線の臨時バスで高の原駅乗り場に到着。そこで約70人が乗り込み満車となった。
運転士は定刻通りに発車したが、再度バス停を目視するとまだ「多くのお客様がバスのりばでお待ちであった」ことが分かった。そのため、「本来乗務中の携帯電話の使用は禁止しているものの、自身の携帯電話で営業所に電話をかけ、後続のバスを早くバスのりばに配車するよう業務連絡した」という。
同社は、安全輸送の徹底に努めてきた中でこうした事態となったことについて「お客様ならびに関係の皆様に重ねて深くお詫び申しあげます」と謝罪を繰り返した。その上で、「この度の処分を厳粛に受け止め、信頼回復に向けて、今一度、社員教育の徹底と管理体制の強化を図り、再発防止に全力で取り組んでまいります」としている。
ツイッター上では「携帯電話やなく無線で営業所に連絡するって考えは運転手にはなかったのかな?」と運転手の行為に疑問を呈す声があがる一方、「何か切ない ダメなんでしょうが、運転者さんの好意が」「世知辛い世の中になりましたね...」と同情論もあがった。
「会社としては絶対にあってはならない」
奈良交通の総務人事部担当は3月7日、J-CASTニュースの取材に、当日の状況について「沿線の学校で説明会が行われる日だったため、弊社としても利用されるお客様が多くなると見込んで臨時バスで対応しました。ですが、想定以上のお客様が利用され、運転士は早く次のバスが着くようにと携帯電話で業務連絡を入れました」と明かす。
同社では観光用バスなどには業務用の無線機が備わっているが、「路線バスにはありません」という。再発防止に向け「運転士への指導の徹底が第一ではありますが、ハード面でも対応を検討したいと思っております」としている。
携帯電話の使用は利用者を思ってのことだったのではないか。担当者は「そういう思いはあったと思います。しかし、(運行中の使用禁止は)規則で定めていることであり、会社としては絶対にあってはならないことです。発車前に業務連絡するなどの方法もありました」として、粛々と対応していく考えを示している。
なお、行政処分は所轄の平城営業所に下されたもので、同営業所のバスが一時的に使用できなくなる。担当者は「他の営業所と車両のやりくりをし、ダイヤの乱れがないように、お客様にご迷惑がかからないよう運行していきます」と話していた。