「企業主導型保育所」を見直す動きが本格化している。
待機児童対策の切り札として期待され、設置が相次いだが、質が伴わず、休園などのトラブルが相次いでいる。国の制度設計の甘さが指摘され、国も有識者会議を設置して年度内をめどに改善策を検討している。
経験、ノウハウない企業も参入
企業主導型保育所は、企業が主に従業員向けに開設する認可外保育所。自社従業員のために福利厚生の一環として「企業(事業所)内保育所」を設けるところがあったが、地域の保育所が満杯で待機児童が大量にいる中で定員に余裕がある保育所もあること、施設などの確保がしやすいなどとして、2016年度から「企業主導型」として、地域枠(定員の2分の1が上限)を設けて地域住民も利用できる制度として整備した。
認可保育所は施設や保育士の配置基準が厳しいのに対し、企業主導型は基準が緩い「無認可保育所」であっても、施設整備費や運営費は認可並みの助成が受けられるのが最大のポイント。企業が自ら運営してもいいが、保育事業者に委託することも可能。つまりノウハウのない企業も利用しやすく、複数の企業が共同で施設を設置することもできる。
制度スタート以降、新設が相次ぎ、2017年度末までに2597施設が整備され、その定員は計約6万人になる。2018年度の審査でも新たに1539施設(定員約3万5000人分)が増える見込みという。
一方で、実際の審査は緩い。内閣府から委託された公益財団法人「児童育成協会」(東京都渋谷区)が、審査・選定から施設整備費や運営費の助成支給決定までを受け持つ。その審査・選定に実地調査はなく、書類だけで行われる。このため、「保育事業の経験、ノウハウがない企業でも参入しており、助成金狙いの業者もいる」と、関係者は指摘する。
衝撃与えた「一斉退職事件」
これで問題が起きないわけがないということか。関係者に衝撃を与えたのが、東京都世田谷区での「保育士一斉退職事件」だ。2018年10月末、2カ所の企業主導型保育所で起きた。関係者によると、この2園を経営する会社は、職員への給与未払いや家賃滞納があったという。うち1カ所は休園(1カ月後に再開)、もう1カ所は別の会社が引き継いで続けているが、騒動の過程で別の保育所を探さなければならなかった親もおり、深い傷跡を残した。 内閣府によると、制度が始まってから取り消しになったのは2施設だけで、休止も3~4施設程度という。ただ、届けを出さずに休園している施設もあるとみられる。2018年3月末時点で運営していた企業主導型1420施設の充足率は約6割にとどまっているという。地域的に偏り、特に自治体との連携が取れていないため、需要とマッチしていないとみられている。
こうした問題発生に、政府は質の確保や事業の継続性、指導・監査のあり方などを検証する有識者会議「企業主導型保育事業の円滑な実施に向けた検討委員会」を11月に設置、利用実態調査にも乗り出した。12月17日に開かれた検討委の第1回会合で宮腰光寛少子化担当相は、「量の整備に重点が置かれすぎ、質の確保への意識が必ずしも十分でなかったのではないか。質の確保が何よりも大事で、検討結果を踏まえて内閣府で改善を図りたい」と述べた。
迷惑受けるのは「まっとう」な保育所
事実上、保育定員拡大という量優先の間違いを認めた形だ。検討委では、自治体との連携や、指導・監査、相談支援のあり方、助成金支給の実施体制なども議論し、年度内に改善案をまとめる。
具体的のどのような改善策がまとまるかは不明だが、専門家からは「補助金狙いで参入し、簡単に撤退する業者をきちんとチェックし、排除できるようなスキームが必要」との声が出ており、内閣府は検討委での検討結果を踏まえ、2019年度以降の事業の実施方針を決定するとして、と関係者に「施設整備費助成金の申請を検討されている事業者様におかれましては、整備着手(契約や工事等)はお控えいただき、着手時期等について、今後、新たに作成する実施方針を十分にご確認いただきますようお願いします」と呼びかけている。 いずれにせよ、質の確保のために規制強化が図られるのは必至。まっとうに保育所を設置しようという事業者には、いい迷惑に違いない。