「グリコ」アプリ記事に研究者が苦言 夫婦のすれ違い解説に「安易に『脳科学』に理由を帰属させることは浅慮」

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   江崎グリコが子育て中の夫婦に向けたスマートフォン向けアプリ「こぺ」の一部サービスをめぐり、懐疑的な意見が寄せられている。

   アプリでは夫婦間のすれ違いは「脳の差異」が原因だとして、さまざまなアドバイスを送っている。しかし、専門家は「安易に『脳科学』に理由を帰属させることは浅慮」と一蹴する。

  • 「こぺ」画面
    「こぺ」画面
  • 妻「好きにすれば?」の本音は?(「こぺ」公式サイトより)
    妻「好きにすれば?」の本音は?(「こぺ」公式サイトより)
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  • 妻「好きにすれば?」の本音は?(「こぺ」公式サイトより)

「女性脳は何より共感を求めているの」

   2019年2月4日にリリースされた「こぺ」。子育て中の夫婦のすれ違いを解消するとのコンセプトで、記事などを配信している。

   公式サイトのコンテンツ「おしえて!こぺ!」では、すれ違いの原因は「脳の性差」にあると解説。

「脳を装置として見立ててみると、男性脳と女性脳では回路のかたちや信号の種類がちがうから、当然、おなじ入力に対しての出力も変わってくるよ。それなのに、パートナーを自分と同じように扱おうとするから、ストレスを感じてしまう」

   これを前提に、アプリの記事では関係を良好に保つテクニックを紹介。女性向け記事では、

「段取り上手の女性脳と比べて、男性たちはあまりにも段取りが悪い」
「男性脳には『察する機能』がついていないと思った方がいいよ! 本来はついていなくて、経験によって培われるオプション機能だと! 左右の連携が悪い男性脳は、目の前の些細な変化に気づくのが苦手なんだ」

   男性向け記事では、

「女性脳は何より共感を求めているの。話を聞いてくれて、共感さえしてくれればOKなの」
「『言わなくても』察してもらえることで、大切にされていると実感できるのが女性脳。つまり、察する気がない=愛されていない、になってしまう」

などと助言している。

   「おしえて!こぺ!」では、「パパのためのママの気持ち翻訳」との情報も提供されている。例えば「仕事と家庭のどっちが大事なの?」と妻に言われ場合、本音は「私は家庭を優先しているのにあなたは仕事ばかりでさびしいわ」だという。そのため、夫に「寂しい思いをさせてごめんと謝って。ママに仕事の愚痴を打ち明けてあげよう」とアドバイスを送っている。

最近の研究では「脳の性差」どうとらえる?

   脳の差異に関する情報は、脳科学コメンテイターの黒川伊保子氏が監修した。しかしアプリ公開後、SNSでは懐疑的な見方が少なくない。

   東京大学大学院総合文化研究科の四本裕子准教授(認知神経科学)はJ-CASTニュースの取材に、男女の脳の性差について、

「最近の研究では、『男女間には個人差を超えて一般化できるような脳の構造や機能の差はない』という説が有力です。したがって、これは事実だとは言えません」

と前述の記事の根幹となる主張を否定。

「『男女で同じ入力に対する出力に違いがある』ということは否定できませんが、その理由を脳の構造や回路に求めるのは間違っています。『男女がおかれた立場の違い、家庭生活における役割の違い』のほうが、大きな要因なのではないでしょうか?」「他の要因についての言及もせず、安易に『脳科学』に理由を帰属させることは浅慮であると私は考えます」(四本氏)

江崎グリコ、監修者の言い分は?

   江崎グリココーポレートコミュニケーション部の担当者は20日、取材に「当コンテンツは、黒川伊保子氏の監修をもとに、脳の構造的な差異ではなく、脳の神経信号特性の知見を根拠にしております」と説明。黒川氏の研究は「信頼できる」と考え、監修を依頼したという。

   科学的根拠がないといった批判については、「今後、ご利用者様からの様々なご意見を真摯に受け止め、日々改善を重ねていく所存です」とした。なお、23日には「たくさんのご意見を頂戴」したとして、「おしえて!こぺ!」は非公開となった。

   黒川氏に説明を求めると、脳の差異については便宜上「脳科学」としているが、実際はみずからの人工知能研究にもとづいた理論からわかったという。研究は25年前に行われ、当時は人工知能という言葉の知名度が低かったため「脳科学」と銘打っている。

「私どもが『男女の脳が違う』と表現するのは、『男女の、とっさに優先して使う、典型的な演算モデル(口にするセリフ、会話の進め方)が違う』という意味です。男女間で起こるコミュニケーションギャップについては、『女性脳』と『男性脳』の演算モデルの違いが、その原因のほとんどであると考えます」(黒川氏)

   研究の成果はビジネス上の観点から論文にはしていないという。

   (J-CASTニュース編集部 谷本陵)

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