岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち ユダヤとアラブ、対立に拍車かける米政権

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「僕たちはテロリストじゃないんだよ」

   イスラエル最後の日、夫と私はパレスチナ自治政府の事実上の首都、ラマッラへ行った。エルサレムからバスで、高い壁を巡らされたこの街に入る。検問所には例のごとく、「イスラエル市民の立ち入りは禁止。生命の危険あり」と書かれた看板が立っている。

   市場も通りも活気があり、人々は生き生きと働いているように見えた。外国人の私たちに、ここでも「Welcome.(ようこそ)」と声をかけてくれる。

   アラファト議長の墓などを訪ねたあとで、アラブ人経営のアイスクリーム屋に立ち寄った。店内でアイスクリームを食べながら、50代の経営者の男性と話した。彼の両親は、イスラエル建国時にユダヤ人に土地を奪われ、この町に移ってきた。

   「ここを訪れるイスラエル人は、兵士だけだよ」と彼が言った。

   今回の旅で、言葉を交わしたアラブ人とユダヤ人の誰もが皆、フレンドリーで親切だった、と彼に話した。そして、この連載の「イスラエルで見聞きした『トランプのアメリカ』」初回に登場する、エルサレムに住むユダヤ人女性の話をした。私たち夫婦を家に呼び、夕食をご馳走してくれた彼女は、アラブ人居住区に囲まれ、不安を抱えて生きていた。

「その人は、アラブ人を怖がっているのかい?」

   うなずく私に、彼は首をすくめ、悲しそうにつぶやいた。

「僕たちはテロリストじゃないんだよ」
「アラブ人もユダヤ人も皆、平和にごく普通に暮らすことだけを望んでいるのにね」
「そう。いい人たちは多いんだ。アラブ人もユダヤ人も。政府は和平なんて考えていない。僕たちにできるのは、一生懸命、働く。ただそれだけだ」

(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計37万部を超え、2017年12月5日にシリーズ第8弾となる「ニューヨークの魔法のかかり方」が刊行された。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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