2018年から19年にかけての年末年始に、初めてイスラエルを旅した。今回は番外編「イスラエルで見聞きした『トランプのアメリカ』」の最終回となる。
夫と私はエルサレムの街角で出会った50, 60代の女性ふたりと意気投合し、旧市街のカフェで1時間ほど話すことになった。
増える超正統派ユダヤ教徒
女性のひとりは幼稚園教諭で、兵役を終えてこの街に住み始めたという。
「私はエルサレムが大好きなの。テルアビブと違って、村のような雰囲気があって、人々も温かいわ。この町が超正統派ユダヤ教徒のものになってしまわないように、私はここに居続けるの」
もうひとりの女性が、口をはさむ。
「今、イスラエル、とくにエルサレムでは超正統派ユダヤ教徒たちが、幅を利かせているのよ。男たちの多くは仕事をせずに宗教研究に専念している。宗教研究は世俗の仕事より上で、それが自分たちの使命だと信じているからよ。所得が少ないために税金をほとんど払わず、福祉の世話になっている彼らを、私たちが支えているのよ」
電車のホームで、バスの中で、カフェで、道を歩きながら、トーラ(ユダヤ教の律法)を読む男性の姿を、エルサレムのあちこちで見かける。
約70年前の建国当初、ごくわずかだった超正統派ユダヤ教徒は今、イスラエル総人口の1割強を占め、40年後にはその4倍になるとの推測もある。なかでも聖地エルサレムでは、超正統派ユダヤ教徒の割合が多く、全人口の3分の1を占めている。宗教的な理由から、彼らの出生率は飛び抜けて高い。
右派政党「リクード」党首のネタニヤフ首相は、今も多くの保守派の支持を得ており、政治的にも宗教色が強い。汚職疑惑はあるものの、通算13年も国を率いた実績と安定感は評価されている。
ネタニヤフ首相は、トランプ米大統領とも親密な関係を築いている。トランプ氏の義理の息子クシュナー氏は、超正統派ユダヤ教徒で、娘のイバンカ氏もユダヤ教に改宗した。クシュナー家は以前から、占領地内のユダヤ人入植を支援し、多額の寄付をしてきた。
トランプ氏の元顧問弁護士のフリードマン駐イスラエル米大使も、強力な入植支持者だ。イスラエルとパレスチナの「2国家共存」にも反対してきた。トランプ氏の就任以来、入植地の数も人口も急増している。