実は「むしろ親米」な文在寅政権
―― 事実と異なるから「陰謀論」なわけですが、どういった点が「陰謀」なのでしょうか。
木宮: 今の安倍政権の外交政策では、インド太平洋の話はよく出てきますが、環日本海や北東アジアに関する話はあまり出てきません。日本側が重視していないものについて韓国側が過度に問題視するのは陰謀論の類だと思います。逆に韓国についていえば、北朝鮮との関係にある意味で前のめりになっているのは確かです。ただ、韓国が米国の後ろ盾がない状態で北朝鮮にアプローチしても北朝鮮は相手にしないし、韓国は孤立してしまいます。韓国は、このことを盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の経験でよく分かっています。したがって、文在寅政権が気を遣っているのは米国との関係で、トランプ大統領をおだてて、何とか韓国が進めている北朝鮮政策に乗っかってもらおうとしているわけです。反米ではなく、むしろ親米です。ですが、日本では「文在寅政権が北朝鮮や中国と一緒になって米国に対抗しようとしている」という図式を作りたがる人がいます。
―― では、今の韓国政権は、日本をどの程度重要だと思っているのでしょうか。
木宮: 文在寅政権が米国に対して非常に気を遣っているのとは対照的に、日本との関係にはあまり気を遣っているようには見えません。南北関係が良好だった金大中政権では、米国や場合によっては日本も味方につけていました。金大中-小渕-クリントンのラインが機能していたわけです。このことを念頭に、19年2月9日に行われたシンポジウムでは、講演した文正仁(ムン・ジョンイン)大統領統一外交安保特別補佐官に「日本のことをもう少し意識したらどうですか」と質問したら、ああいう答えでした(編注:文氏は「朝鮮半島の平和体制と非核化」というテーマで行った基調講演で日本について言及せず、このことを木宮氏から指摘されると「現在、南北と米国が終戦宣言や平和協定や非核化について話し合っており、日本の役割はあまりない」と応じた)。日本に来てわざわざそんなふうに言わなくてもいいのにな、と思ったんですけどね。
―― 韓国政府の肩書を持った人が東京で日本人の聴衆を前に講演したのに、日本について言及しない。こういったやり方は、日本の世論に対して不適切なメッセージを送ることになりませんか。
木宮:もともと文正仁先生は私がよく知っている方で、知的に恩人でもあるし、大好きな韓国人のうちの一人です。文先生は日本にはよく来られますが、日本や日韓関係の専門家ではないので、あまり積極的に触れようとしなかったのかもしれません。私の質問の狙いには大きく3つありました。ひとつが、韓国から見て日本の北朝鮮に対する見方の何が問題なのかをきちんと指摘してほしかった、ということ。二つ目が、韓国政府は日本の見方がおかしいと思うのならもっと日本と対話して説得することが必要なのではないか、それについて文先生が日本との対話や日本に対する説得の必要性を韓国政府に対して促してもらえないか、ということ。三つ目が、北朝鮮問題で米国に影響力があるのは日本なので、米国を重視している韓国が「日本は役に立たないから無視する」というのはおかしい。日本を通じて米国を説得するというアプローチも考えてみるべきではないか、ということでした。韓国から見て日本は利用価値がもっとあるはずなのに、それを認めずにあんまり利用しきれていないんじゃないか、ということを、私としては指摘したかったわけです。