「もう一度受験をするのは時間とお金の無駄でしかないから、ここで大学の勉強に集中しなさい」――。第一志望ではない大学に入った学生に向け、大学教員が執筆したブログ記事がネット上で話題になっている。
記事は、「滑り止めの大学に入ってしまったらどうするか」というタイトルで、2019年2月14日に公開。「(受験に)失敗したとしてもそれをいつまでも引きずる必要はありません」と学生に語りかけた執筆者の思いとは。
難易度と「授業自体の難しさやおもしろさ」関係ない
記事は、ドイツ文学が専門の近畿大学・熊谷哲哉准教授が執筆。普段、一部の学生に話している内容を記事にまとめたという。
熊谷さんはブログで、「はじめに認めないといけないのは、自分が受験に失敗したということ」と説く。「たしかに受験勉強は結果がスコアとしてあらわれるし、いい大学に合格することが自分の自尊心を高めることにもなるし、実際に就職活動などで差がつくことはあります」と認めつつも、「大学の難易度と、そこに勤める教員の質や、授業自体の難しさやおもしろさはとくに関係はありません」と指摘。「大学教員の多くは、教える学生のレベルに合わせて、授業の内容を易しくしたり、難しくしたりすることはとくにありません。それはどのレベルの大学だとしても、学生には等しく、質の高い教育を受ける権利があるからです」と語りかけていた。
また、「高校までの学習が小・中学校の各教科とストレートに連結しているのに対し、大学の学問は、多くの場合もっと応用的なテーマを扱っています」と両者の違いにも触れ、入学後に「期待したのと違う」といった感情を抱くのは、大学のレベルよりむしろこちらに原因がある場合が多いとする。
「入った大学が悪いから、授業がつまらない、勉強に意欲が持てない、ということにはならないのです」とブログで諭す熊谷さん。「なぜこの学部・学科に籍を置くことになったのかというところから掘り下げていくのがいいでしょう」とつづり、「何かしらの関心を抱くきっかけが思い出せれば、そこから勉強をスタートすることができます」としていた。
J-CASTニュース編集部は2月18日、熊谷さん本人に電話取材をした。「1年間の授業を終えて、改めて不本意入学の学生が気になっていたので」と記事執筆の狙いを明かした。
自身も浪人時代を経験したという熊谷さん。ブログによれば、現役時、浪人時ともに受験に失敗した。取材に対し、熊谷さんは「旧帝大へのこだわりや意地とかで私立大に全然行く気がなく、浪人することを選んでしまった」と語った。結局、私大に進学することになり、「一年間もっと早く、大学の勉強をやっていろんなことできたのにと」と振り返る。
共感示す声相次ぐ
ブログはネット上で大きな話題となり、熊谷さんも「大学の教員だったらこれくらいのこと考えて当たり前のことを書いたつもりだが、反響があったことに驚いている」とコメント。ツイッター上でも、
「これは僕も落ちまくったし、その後院試で大学院変えたりですごくよくわかる話」
「迷いつつバイトに専念した学生時代だった」
など共感を示す声が相次いでいた。
J-CASTニュース編集部では18日、記事を引用していた何人かのユーザーに取材を申し込んだ。このうち、「似たような経験のある私には身に染みる良記事でした」と発言した、永野あきほさんが取材に応じてくれた。
現在、中学生や高校生へのキャリア教育プログラムの企画・運営にかかわる一般社団法人「Unicul Laboratory」共同代表理事を務める永野さんは高校卒業後、浪人をへて、第一志望以外の大学に入った。「記事でも言われているような『高校までと大学での学び方の違い』に全く気づかず、また希望の大学に入ることばかりを考えていたため、大学で何を勉強したいのか、何をしたいのか、あまりきちんと考えておらず、入ってからしばらくは悶々とした日々を送ることになりました」と振り返った。「記事で言われている『吸収する自分ができていなかった』のだと思います」
永野さんは、「周りの環境が悪いんだ」と考えて再受験をすることに。幸いにもうまくいき、こうした経験が現在の団体での活動にもつながっているという。
「振り返ってみれば、この記事でも書かれているような『大学で勉強するとは?』ということを誰かが教えてくれたり、あるいは高校時代から明確な目的を持って進路選択をできていたら、再受験をせず、最初に入った大学で頑張れていたかな...と思っています。そのような理由から、大変身に染みる思いで記事を読ませていただいた次第です」(永野さん)
(J-CASTニュース編集部 田中美知生)