離職率が高いといわれるアパレル業界。厚生労働省の2017年雇用動向調査によれば、同業界が含まれる「卸売業・小売業」の平均離職率は14.5%だった。
人材定着に向けて頭を悩ます企業が多い中、紳士服大手のはるやまホールディングス(HD)は、17年度の離職率が8.8%という低さを誇る。低水準の鍵は「退職者ヒアリング」の導入だ。
役員みずから退職者へヒアリング
「退職者から『別に辞めなくてもいいのに』という退職理由を何度か聞く機会がありました。そこで、退職理由を会社としてしっかり把握し、離職率低下につながる施策を打ち出したいとの思いで、13年から『退職者ヒアリング』を導入しました」――。はるやまHD管理本部の竹内愛二朗・執行役員は、J-CASTニュースの取材にこう話す。
退職者ヒアリングとは、退職の「真の理由」を引き出す仕組みだ。一般的な企業も退職者に退職理由をヒアリングすることはあるだろう。だが、はるやまHDの「退職者ヒアリング」はその"本気度"が違う。まず、退職者と直属の上司が面談し、聞き取った退職理由をシートに記入して事業部長などに送る。次に、本音がわからなかった場合は、その上のマネージャーがヒアリングし、退職の真因を探る。必要に応じて、役員である竹内氏みずから退職者に電話で聞くケースもあるという。
「細かく退職理由を聞くことで、辞めずに済んだ人も少なくありません。例えば、家に入ってほしいと旦那さんに言われてどうしようもなかった退職希望者には、上司が『パートタイマーで働かない?』と提案し、働き続けてくれた例がありした。今年は10名くらいが辞めるのを止めてくれました」(竹内氏)
実際の退職者ヒアリングシート
2015年のヒアリング結果によれば、同年の退職理由は上位から「他の職種に転職したい」(43.7%)、「給与が上がらないことへの不満」(10.7%)、「望まない場所へ転勤となることへの不安」(10.0%)だった。
こうした「生の声」をもとに、(1)他部署への異動を立候補できる「社員公募制度」、(2)現場で働きながら管理職と同水準の給与がもらえる「スペシャリストコース」、(3)希望した4都道府県に転勤場所を限定する「総合職:地方限定コース」――を導入し、働きやすい環境づくりにつとめた。
制度導入の効果もあり、16年度の退職率は10.2%、17年度は8.8%だった。
「全社員が閲覧可能な匿名目安箱」でさらなる職場改善へ
リクルートキャリアが運営する転職情報サイト「リクナビNEXT」が企業の優れた取り組みを表彰する「GOOD ACTIONアワード」では、退職者ヒアリングによる独自の制度改革と働き方改革が選ばれた。
(左)アキレス美知子氏、竹内愛二朗氏
審査した横浜市政策局男女共同参画推進担当参与のアキレス美知子氏は、2019年2月13日に東京都内で行われた授賞式のスピーチで、
「多くの会社では人事が話を聞いて、『一身上の都合』と答える人が多い中、退職理由を明確にし、そこで終わらずどんな工夫をしたら退職しないでもよかったのかと分析の上、施策を実施したのは素晴らしい」
と称えた。
さらなる離職率低下に向け、19年1月からは匿名で会社への要望を伝えられる「目安箱」も設置した。「設置してから1週間で60件集まり、『社内投稿サイト』と呼ばれていますが、厳しい意見も多く、改善に向けて検討を進めています」(竹内氏)
一人ひとりがイキイキと働くための職場の取り組みに光をあてるプロジェクト
「GOOD ACTIONアワード」
https://next.rikunabi.com/goodaction/
※各社の職場を盛り上げる取り組みを紹介中