「親子世界王者」なぜ出ない? 増える二世ボクサーとその明暗

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   ボクシングの元WBC世界バンタム級王者・辰吉丈一郎(48)の次男の寿以輝(22)=大阪帝拳=のプロ11戦目が2019年2月13日、決まった。4月5日にディオンアリーナ大阪第2競技場で松浦大地(29)=ワタナベ=と56・5キロの8回戦に出場する。最新の日本ランキングで日本スーパーバンタム級22位にランクインした寿以輝は、当面の目標として日本王座挑戦権を有する12位以内を目指す。

   寿以輝の活躍をはじめとし、ボクシング界では元世界王者や元東洋、日本王者の二世ボクサーが増える傾向にある。元世界王者の父を持ち、初の親子王者に最も近いとされるのが、元WBC世界スーパーバンタム級王者・畑中清詞氏(51)の長男・建人(20)=畑中=だろう。昨年9月にWBCユース・フライ級王座を獲得し、戦績はデビューから無傷の7戦全勝7KOを誇る。

   アマチュアで2020年東京五輪を目指している元世界王者の子息もいる。元WBA世界スーパーライト級王者・平仲明信氏(55)の長男・信裕(22)=芦屋大4年=だ。沖縄のジムから初の世界王者となった明信氏譲りの強打が持ち味で、東京五輪後のプロ転向が期待されるホープだ。

   現役の世界王者に目を向けると、WBC世界ライトフライ級王者・拳四朗(27)= B.M.B =は、元東洋太平洋ライトヘビー級王者・寺地永氏(54)を父に持つ二世ボクサー。父の指導のもと、中学3年でボクシングをはじめ、高校、大学とアマチュアで活躍し、父が会長を務めるジムからプロデビューして世界王者へと登りつめた。

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具志堅氏が、グローブの代わりに息子に与えたもの

   上記の二世ボクサーの他にも元王者の父を持つ有望な次世代ボクサーが育っている。ただ、現在までに日本人の元世界王者の子息が世界王者となった例はない。元世界王者の子息がプロデビューしたケースは過去にもあった。だが、いずれもボクサーとして大成することなくひそかにグローブを置いている。

   過去、多くの元世界王者を取材した経験があるが、子息にボクシングを勧める元王者はほとんどいなかった。その一番の理由は「危険なスポーツだからボクシングは自分だけで充分」だった。元WBA世界ライトフライ級王者で日本歴代最多の13度の防衛を誇る具志堅用高氏(63)もそのひとりで、子息にはグローブの代わりにゴルフクラブを与え、ゴルフの道を勧めた。

   また、ある元世界王者の子息が高校のボクシング部でいじめを受けたとの話を聞いたこともある。輝かしいプロでの栄光を持つ父と同じ道を歩むということは、子息にとっては「重荷」となるケースもある。

炎の男・輪島氏が子息にボクシングを命じた理由は...

   最近の二世ボクサーの特徴といえば、世界王者になれなかった父に代わって世界王者を目指しているという傾向が強い。一度、頂点を極めたボクサーは、その険しさから子息にボクシングをやらせたがらないが、夢半ばで引退したボクサーは自身の夢を子息に託すということだろうか。

   かつて、元WBA、WBC世界スーパーウエルター級王者・輪島功一氏(75)の次男・大千さんを取材したことがある。31歳でプロデビューした異色のボクサーで、父に命じられてプロになったという。その理由を輪島氏に聞いたところ、「ボクシングのトレーニングは辛いものだが、その分、勝った時の喜びは大きい。息子にはボクシングを通じて人生の勉強をしてほしかった。なにくその気持ちだよ」と苦労人ならではの理由だった。

   1952年に白井義男氏が日本人として初めて世界王座を獲得してから67年。日本初の親子世界王者誕生の時は、そう遠くないかもしれない。

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