大勢の報道陣を前に、眼鏡を外して涙を拭った、埼玉県川越市の相場謙治さん(40)。平静を取り戻そうと前を向いたが、目にはうっすらと涙が残っていた。
会見の終盤に流した涙。冒頭で相場さんは前を見据え、「特別な権利がほしいわけではない。(婚姻を選択できる)平等なスタートラインに立ちたいだけ」と提訴への思いを語った姿とは、対照的な一幕だった。
国内初の訴訟...裁判所前には報道陣が詰めかけた
2019年のバレンタインデー。「同性婚」が認められないのは憲法違反だとして、全国で暮らす同性カップル13組が、東京、大阪、名古屋、札幌で一斉に提訴した。「法律上も家族になりたい」「誰もが結婚できる社会に」――原告はさまざまな思いを胸に、この日を迎えた。
「同性婚ができない」ことの違憲性を真正面から問う、国内で初めてとされる訴訟だ。提訴は午前から午後にかけ、全国で行われた。
このうち、東京地方裁判所(千代田区霞が関)の正面には、訴状が提出される約30分前から、50人ほどの報道陣が詰めかけていた。カップルらは一人ずつ提訴前の気持ちを語った後、原告団は訴状を手に、裁判所の敷地内に入っていった。
相場さんも、そのうちの一人。「全国のセクシャルマイノリティの人たちの思い、原告たちの思いが(訴状に)載っていると思うと、非常に胸が熱くなった」と心情を吐露。パートナーの古積健さん(45)=川越市=も「これから長い道のりになると思う。皆さまのサポートがないと進めていけない」と協力を求めた。
2時間後に都内で始まった記者会見にも、大勢の報道陣が詰めかけた。用意されていた席すべてが、会見の始まる1時間ほど前には埋まった状態に。
2013年には「結婚式」も
会見で相場さんは、「裁判官の皆様にも公平な判断のもと、必ず勝訴を勝ち取って、国には同性婚を認めてもらいたい」と強調。古積さんも「戸籍上、同性同士のカップルは異性同士のカップルのように婚姻を選択できない。『あなた方が劣っている』というふうに言われているように思えてならない。この裁判は私たちや、ここにいないたくさんの仲間たちの尊厳を取り戻す長い旅。私たちの大切な相手を思う気持ちというのが異性同士のそれと何一つ変わらないことを、裁判を通じて感じていただきたい」と訴えた。
訴状などによると、2人は2008年5月ごろ、共通の友人の家であった飲み会で出会った。相場さんが古積さんにひとめぼれ。デートを重ね、9月ごろから交際をスタートさせた。2009年から共同生活を始め、2013年に都内のホテルで結婚式を挙げている。当初は「同性の結婚式は受けられない」と断られたが交渉を続け、「OK」の返事をもらった。今年の1月4日、2人は川越市役所に婚姻届を提出したが、同性同士であることを理由に不受理となったという。
そんな相場さんが流した涙。その時の思いについて記者から聞かれると、
「お見苦しいところをすみません」
と苦笑い。それでも言葉を紡ぎ、
「やっぱり皆さんの熱い思いとか、今まで自分が経験してきたつらい思いとかが思い出されてきて、全国の言いたくても言えない人たちの顔がすごく浮かんできて、ちょっと感極まってしまいました」
と報道陣に語りかけていた。
(J-CASTニュース編集部 田中美知生)