「すべて成功」でも「すべて失敗」でもない最長景気 アベノミクスの明と暗とこれからと

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   戦後の景気拡大期の長さランキングのベスト3は、(1)いざなみ景気=2002年2月~2008年2月の73カ月、(2)いざなぎ景気=1965年11月~1970年7月の57カ月、(3)バブル景気=1986年12月~1991年2月の51カ月。

   今回の景気拡大(名前はまだない)が始まったのは、2012年12月、まさに第2次安倍政権が発足した時期。リーマン・ショック(2008年)からの海外経済の回復という追い風の中、日銀の大規模な金融緩和で円安が進み、自動車など輸出産業を中心に企業業績が回復。少子高齢化に伴う働き手の減少もあって失業率は歴史的低水準にはりつくなど雇用環境も改善した――概観すると、こうした表現になる。

   この景気拡大局面は2019年1月で74カ月(6年2カ月)に達したことになり、茂木敏充経済再生担当相が「戦後最長になったとみられる」と明言したのは、すでに読者のあなたもご存じのとおりだろう。

  • 安倍政権誕生とともに始まった「最長景気」
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雇用が回復したことは間違いない

   なにより、この景気を引っ張ったのは企業部門だ。金融緩和による円安と世界経済の回復、さらに2020年東京五輪も追い風に、企業業績は大きく改善。財務省の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)の経常利益は2013年度に59.6兆円と7年ぶりに過去最高を更新し、以降5年続けて最高記録を塗り替え続け、2017年度には83.6兆円に。訪日外国人は6年で3.7倍になり、3000万人を突破し、円安で外貨の日本での価値が高まったことで「爆買い」「インバウンド消費」が人口減のなかでの国内の小売産業を支えた。

   雇用も回復した。厚生労働省などによると、今春に卒業する大学生の内定率(2018年12月時点)は87.9%と、6年前より13ポイントも高い。少子高齢化による人手不足が背景にあるとはいえ、2018年の平均の完全失業率は2.4%と、1992年以来26年ぶりの低さ、同年の有効求人倍率は年平均で1.61倍と1973年以来45年ぶりの高さと、いずれもバブル期をしのぐ歴史的な水準。アベノミクスの効果で雇用が回復しているのは間違いない。

   ただ、賃金の伸びは鈍い。厚生労働省によると、主要企業の春闘での賃上げ率は、2018年の2.26%など、「官製春闘」が始まった14年以降、毎年2%台で、バブル期の1990年(5.94%)などより低い。日本の企業の9割超、労働者の7割以上を占める中小企業の賃上げが大手に及ばず格差が広がっているとも指摘される。現在、国会で問題になっている毎月勤労統計で、2018年の実質賃金の伸び率がマイナスだったことを、政府も事実上、認めている。

もし景気が後退したら...抱える「リスク」

   大和総研が2018年10月に試算した実質可処分所得(名目所得から税金や年金・医療などの社会保険料などを引いた)の推移によると、共働きで年収1000万円の世帯の場合、2011年時点で818万円だったのが2014年には780万円台となり、2015年以降は780万円そこそこに張り付いたまま。国内総生産(GDP)の6割以上を占める個人消費が力強さを欠くのも当然だ。

   このため、内閣府のまとめでは、景気拡大といってもGDP成長率は低空飛行で、今回の拡大期間中、物価の変動を除いた実質成長率は平均で年率1.2%にとどまる。いざなぎ景気の11.5%には比べようもないが、バブル景気の5.3%、いざなみ景気の1.6%をも下回る。非正規労働の増加もあって、賃金の伸びは鈍く、「実感なき景気拡大」と指摘される所以だ。

   足元で、海外からは逆風も強まっている。米中摩擦を背景に中国の成長が鈍り、電機など部品を中心に日本からの輸出減の報道が相次ぐ。英国の欧州連合(EU)離脱問題の混乱が欧州の景気に影を落とす。国際通貨基金(IMF)が1月21日に発表した今年の世界の成長率見通しは3.5%と、従来見通しを0.2ポイント下方修正した。だが日本は、金融緩和政策はいっぱいいっぱいで追加緩和の余地はほとんどなく、財政赤字も拡大しているだけに、景気が後退した時に打てる政策は限られている。

   実は、景気の拡大・後退の公式な判定は、内閣府が有識者会合の議論を経て行うが、経済指標を詳細に分析して結論を出すので、半年~1年以上かかる。事後的に「戦後最長」が幻に終わる可能性もあり、浮かれている余裕はないのが実態と言えそうだ。

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