ペンギンのキャラクターでおなじみの交通系電子マネー「Suica(スイカ)」。JR東日本エリア在住だと、持ち歩いている人も多いだろう。
そんなSuicaに、2019年度中にも「簡易版」が導入されると報じられた。利用可能な駅が増えるとあって、ツイッターでは「これはめちゃくちゃ期待!」といった反応が出ている。導入によって、何が変わるのか――。
処理が早いのが、かえって導入の障壁に
産経新聞(19年2月7日付東京版朝刊)は、「Suicaに簡易版 全域カバーで経済圏」の見出しで、JR東日本の深沢祐二社長へのインタビューを伝えた。記事では、現状の端末は高価なため、クラウド技術を用いた「簡易版」を用意することで、管内全域をカバーしていく方針を報じている。
Suicaは01年、424駅でサービス開始された。JR東の会社要覧によると、18年春時点での利用可能駅数は、首都圏エリア637、仙台エリア116、新潟エリア65。駅数は1667(貨物駅5含む)とあるから、対応している駅は全体の約半数にすぎない。
端末価格が高い要因には、性能の高さがある。Suicaは、Edy、iD、QUICPay、nanaco、WAONといった、かざして決済する主要電子マネー同様に、ソニーが開発した通信技術FeliCa(フェリカ)を採用している。FeliCaはもともと処理の速さが特長だが、なかでもSuicaは改札を「1分で60人通りぬける」スピードに耐えられるよう、高精度のシステムが組まれている。
とはいえ、大都市圏では高速処理が欠かせないが、乗降者数の少ない駅では宝の持ち腐れ。自動改札機のない駅でも、大都市圏には簡易Suica改札機が置かれているが、いまなお全駅導入に踏み切れない背景には、現状の「簡易」改札でも採算が合わないことがありそうだ。
圧倒的な発行枚数をそのまま武器に
簡素化で安価にする方針は、以前から報じられていた。18年4月には日本経済新聞(19日付朝刊)が、JR東が「廉価版Suica」を研究開発中とし、深沢社長が海外進出の可能性を語っている。同氏は、現状のシステムをそのまま輸出するには「性能が過剰すぎ、採算が合わない」と指摘。読み取り速度などを見直し、コストを抑えたシステムの開発方針を示唆した。
具体的にどうするかは、産経記事に詳しい。深沢氏は、クラウドを活用して、「端末側で情報を持たないシステムにする」という。具体的なことは書かれていないが、端末で行っていた処理をクラウド上で行うようになるとすれば、処理時間は長くなる可能性があるが、各端末の機能は最小限で済むようになる。
性能を削ってでも、普及に力を入れる。その背景には、Suicaにかける期待がある。JR東グループは18年夏、今後10年間の経営ビジョンを示す「変革2027」を発表した。そこによると、17年度時点の収益比率は、輸送サービスと、生活サービスやIT・Suica事業が「7:3」。これを27年度ごろまでに、「6:4」へ軸足を移すのが目標だ。
Suicaの発行枚数は18年3月末時点で、6942万枚。Edyの1億枚(16年11月)には及ばないが、「PayPay(ペイペイ)」(400万人)のようなQRコード決済と比べれば、まだまだ優位にある。また、20年近くの歴史で、知名度も高い。使える駅が増えて、Suicaユーザーが増えれば、新興キャッシュレス決済には脅威になりそうだ。