仮想通貨をめぐるミステリー?――カナダの仮想通貨交換会社で巨額の資産が引き出せない状態となり、注目を集めている。パスワードを知る唯一の人物である創業者が急死して「(システムに)アクセスできないため」と会社側は説明している、のだが...
利用者の一部からは「本当に死亡したのか」といった疑問の声が当初からネット上であがっていたが、外部機関による不審点の指摘も出始め、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)などの大手メディアも疑問の声を伝える事態となっている。
訪問先のインドで急死、と発表されたが...
「引き出し不能」のニュースは、日本メディア(ウェブ版)も報じている。2019年2月5日、日経新聞やNHKなどが伝えた。概要は次のような内容だ。
「カナダ最大の仮想通貨交換所」(テレビ東京)である「クアドリガCX」で、仮想通貨約150億円(テレ東。NHKは『およそ200億円』)が引き出せない状況になっており、理由は(暗号解除のための)パスワードを一人で管理していた(共同)創業者でCEOのジェラルド・コットン氏が18年12月、訪問先のインドで急死したためだ。30歳だった。妻がパスワードのメモなどを探したが見つからず、依頼をうけた専門家も(ごく一部のシステムを除き)アクセスできなかったという。
クアドリガCXは、CEOだったコットン氏の死去について、19年1月14日のフェイスブックで報告していた。旅行中のインドで18年12月9日、クローン病の合併症のため死亡した。現地では、孤児院を開設していた。暫定的な会社の執行部体制にも触れている。末尾に妻のジェニファー・ロバートソン氏の署名が添えられており、「コットン氏の遺産執行人」との注記もある。
そして19年2月5日(現地時間)、会社サイトで「クアドリガCXからのメッセージ」を公開。パスワードなどを発見できず、依頼した専門家もオフラインで保管された「コールドウォレット」へも、(少額のものを除き)ほとんどアクセスできなかったという。現地裁判所の関係文書の写しを閲覧できるページへのリンクも張っている。
指摘された状況の「不自然さ」
米ニューヨーク・タイムズ(NYT、ウェブ版)の2月5日記事によると、クアドリガ社のサービスを利用できなくなった投資家らはツイッターなどで、「コットン氏は本当に死亡したのか」「死を偽装(faked)したのか」といった疑念の声をあげていた。
記事ではまた、現地裁判所からクアドリガの対応をチェックするよう指名をうけた総合会計会社、英アーンスト・アンド・ヤングが提出した「最初の報告書」も引用。報告書では、クアドリガには、識別可能な会計システムも銀行口座もないと指摘している。生前のコットン氏が業務を行っていた頃から、支払いの「入りと出」は、「体系的に追跡されていなかった」という。
そもそも「CEOがパスワードを知る唯一の人物」という状況が不自然との指摘もあり、「他の暗号(仮想)通貨の投資家」らが、SNS上や各種メディアとのインタビューで、「なぜCEO一人が、そのような莫大な金額への唯一のアクセスポイントになるのか」といった疑問の声をあげていることにも言及している。
こうした記事はWSJ(2月6日)でも。「暗号ミステリー(直訳。仮想通貨ミステリー、といったニュアンスか)」という言葉を見出しに使い、外部の複数の調査会社がクアドリガの取引記録を分析したところ、「資金は引き出せない状況にあるのではなく、喪失している可能性があるとみている」(日本語版サイトより)と報じた。さらに
「顧客資金を他の仮想通貨取引所に移した形跡があるものの、その後どうなったかは不明だという」
との指摘もある。
かなり雲行きが怪しくなってきたが、他の不審点も指摘されている。コットン氏の死亡証明書がカナダの裁判所に提出されていたり、証明書の現物だとするものを示す記事が出たりする一方、インド現地の警察や複数の大きな病院では、死亡情報は確認できなかった、との海外報道もある。
また、ブルームバーグは2月6日、コットン氏が死去する12日前の18年11月27日、氏が遺言書に署名し、個人資産をすべて妻のロバートソン氏に残し、夫人を遺言執行人に指名していたとする記事を配信した。勿論、偶然その時期が重なっただけ、という可能性もある。
「ミステリー」の様相もみせてきたカナダの仮想通貨問題。今後の展開に注目が集まる。