「景気回復」なのに相次ぐ悲観論 なぜマスコミは日本の将来を危ぶむのか

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   景気回復が戦後最長になったという主旨の政府発表がある一方で、日本の将来像に悲観的な見方が大手マスコミで目立つようになっている。

   特に厳しく指摘されているのは、先端技術研究の立ち遅れだ。「敗北日本」「存在感がない」など、アベノミクスの成果が生まれていないことを危惧する声が強まっている。

  • 大手紙が相次いで掲載した「悲観論」
    大手紙が相次いで掲載した「悲観論」
  • 大手紙が相次いで掲載した「悲観論」

経済同友会トップの嘆き

   最近注目されたのは2019年1月30日の朝日新聞「オピニオン面」に掲載された経済同友会代表幹事、小林喜光さんのロングインタビューだ。「敗北日本 生き残れるか」「技術は米中が席巻」「激変に立ち遅れ」「挫折の自覚ない」という刺激的な見出しがついていた。

   小林さんによると、30年前、世界の企業の株価時価総額トップ10の8割は日本企業が占めていたが、現在はトヨタ自動車が40数位に顔を出す程度。米国のグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンという「GAFA」とアリババ、テンセントなど米中のネット企業が上位を占めている。テクノロジーの世界はさらに悲惨で、半導体、光ディスクなど日本が手がけて高いシェアを誇ったものがいつの間にか中国や台湾、韓国などに席巻されており、「もはや日本を引っ張る技術がない状態」と嘆く。

   経済同友会は日本経済団体連合会(日本経団連)、日本商工会議所(日商)とともに財界三団体の一つ。安倍政権に協力する立場の団体トップの発言だけに、衝撃が走った。

   小林さんは、アベノミクスで何か独創的な技術や産業を生み出すはずだったのに顕著な結果が出ていないことに本質的な問題があると指摘。(安倍政権の)「6年間で約60兆円のGDPが増えたといいますが、国と地方の借金は175兆円も拡大しました。これで次の世代に引き継いでいけるのでしょうか」と心配する。

「日本は次世代技術で存在感がない」

   同じようなことは、表現やデータは異なるが、18年12月31日の日経新聞朝刊の一面トップ「先端技術研究 中国が先行」でも指摘されていた。各国の研究開発力を30のテーマ別に調べたもので、同紙がオランダの学術情報大手エルゼビアと共同で主要論文の閲覧数や注目度を点数化してまとめた。それによると、「ナトリウムイオン電池」「光触媒」など23のテーマで中国がトップ、米国の首位は7つにとどまり、日本は1、2位がゼロ。「免疫療法」など3テーマでようやく3位に入っただけで大半は4位以下だった。

   中国の論文は、かつては「粗製乱造」と皮肉られていたが、最近は質も高まっており、優れた論文として引用される論文数も増えているという。「中国が先端技術の分野で力を付けていることに米国の警戒感は強い」と、米中摩擦の背景を指摘し、「日本は次世代技術で存在感がない」「次世代技術を下支えする政府予算の拡充が求められる」と苦言を呈していた。この記事を読む限り、日本が先端科学技術をもとに、新たな産業分野をリードする世界的な流れから置き去り状態になっている姿が浮き彫りになっている。

「GAFA対中国」に打つ手はあるのか

   「GAFA」対中国の企業。そうした対立の構図と、日本の立ち遅れが鮮明になる中で、出版界でも関連書の引き合いが増えている。

   新刊ビジネス書情報誌『TOPPOINT(トップポイント)』が、1万人以上の定期購読者を対象とした読者アンケートで、2018年後半のビジネス書の中で最高の評価を得たのは、『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』(スコット・ギャロウェイ著/東洋経済新報社)だった。19年1月28日に発表した。

   同書では「GAFA」を聖書のヨハネの黙示録に登場する四騎士――地上の4分の1を支配し、剣、飢饉、悪疫、獣によって『地上の人間を殺す権威』を与えられている恐ろしい存在になぞらえている。彼らが情報や利益を独占することで生じる問題点をあらわにした点が、類書と異なる。

   同様に、『デス・バイ・アマゾン』(日本経済新聞出版社)は、アマゾンに「殺されない」ために他の米企業がやっている対策を示し、『出版の崩壊とアマゾン』(論創社)は日本の知的インフラを支えてきた出版・書店業界が「黒船・アマゾン」に翻弄され、もはや打つ手がない惨状を示す。また、アベノミクスが新産業の育成などの成長戦略につながっていないことについては『日銀バブルが日本を蝕む』(文春新書)に詳しい。

   読売新聞は、政府がⅠ月29日に公表した月例経済報告に「景気拡大 戦後最長に」「6 年2か月『いざなみ』超え」という見出しを付けた。しかし、日経は「景気回復」という慎重な文言にとどめた。「拡大」と「回復」ではかなりニュアンスが異なる。当面の先行きについては「中国リスク」(産経)が指摘されているが、さらにその先の将来を見据えると、より危うい。経済同友会の小林さんは、朝日のインタビューで「米国の別種の州」「中国の一つの市」「他国の2次下請け、3次下請けで食いつなぐ国」になってしまう恐れなども懸念している。

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