岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち 
エルサレムの米大使館を見に行く

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「この土地が神の目的に添うように今、トランプ氏を用いている」

   しばらくそこに立って女性が私に説明していると、すぐそばで駐留していた警備員が、「観光客はみんなあのプレートの写真を撮ったら、すぐに帰っていくよ」と、英語で声をかけてきた。こんなところでいつまでも何をしているのかと、不審に思ったのかもしれない。

   しばらくすると、観光バスが止まり、大勢の中国人旅行者が降りてきて、大使館の写真を撮り始めた。男性のツアーガイドに尋ねると、「トランプで話題になったので、ここに来たがる旅行者は多い。もはや、観光名所のひとつですよ」と答えた。

   バスで知り合った女性は、近くにあるキブツ(集団農業共同体)も案内してくれた。近くに住む彼女の娘の家に寄ったあと、女性の自宅で手作りの夕食をご馳走してくれた。この辺りは丘にアパートが連立している。「67年までヨルダンの土地だった」という。

   女性は自宅への道を歩きながら、アラブ人居住区を何度も指さし、不安を隠しきれない様子で、「私たちはアラブ人に取り囲まれて暮らしているんです。どんどんこちらに押し寄せてきて、そのうち私たちの住む場所も奪われてしまうかもしれない」と言った。「アラブ人が嫌なのではない。キリスト教徒のアラブ人のなかには、親しい人もいる。私たちの土地を奪い、危害を加えるのが、許せないのです」。

   アラブ人にしてみれば、ユダヤ人が自分たちが住んでいた土地を奪った。そして、占領地内の入植地は拡大し続けている。

「時間がかかるかもしれませんが、ほかの国もいずれエルサレムに大使館を移すことになるでしょう。この土地が神の目的に添うように今、トランプ氏を用いているのだと思います。正しいことをしているトランプ氏を、皆が愛し、彼のために祈っています」

   センシティブな内容だけに、女性は名前を出さないでほしいと言った。イスラエルのユダヤ人のなかには、トランプ氏を支持せず、大使館移転に真っ向から反対する人たちも少なくない。

   自宅のすぐ近くでテロが起きるなど、個人的な経験がこの女性のアラブ人に対する恐怖心をあおっているのは間違いないが、私がイスラエルで出会った何人ものユダヤ人の本音を、女性は代弁していた。パレスチナ問題の根の深さを、改めて実感した。

(次回に続く。随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計37万部を超え、2017年12月5日にシリーズ第8弾となる「ニューヨークの魔法のかかり方」が刊行された。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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