依然として語られることが少ない「障害者と性」。この問題をめぐり、頭を悩ます当事者や家族は少なくない。
改めて現場では、どんな問題が生じているのだろうか。障害者専門の派遣型風俗店「ハートライフ」の男性経営者に話を聞いた。
介護士・看護師やケアに関心ある人々が働く
ハートライフは東京を拠点とする専門店。東京のほか、福岡、仙台でサービスを展開しており、2月上旬には岡山でも。
依頼してくるのは、障害者本人のほか、親や介助者。障害の程度に応じて、派遣できる女性を決めている。
利用者らのパターンはさまざま。「(障害者が)僕らの所在を見つけて電話をしてきたが、お母様から『うちの息子は性欲がありません。連絡してくるな』とクレームを入れてくる場合があった。息子さんの履歴でわかったのでしょう」。
逆に、母親が息子のために利用させることもある。母親と女性スタッフが打ち合わせをして、障害のある息子のためにデートのシチュエーションをつくることも。
東京だけで従業員数は約60人。介護士や看護師、障害者へのケアに関心がある人で占められている。射精をお手伝いする手軽なコースもある。最近はインターネット上で障害者の性介助をする女性の動画を見た影響で、「障害者の方にケアをしたい」と面接を受けに来る20代くらいの女性が多いという。
車いすで「店」に出かけたところ...
元々サラリーマンをやっていたという男性。知り合いから「風俗店のオーナーをやりたいから出資してくれ」と頼まれ、業界に参入。派遣型風俗店を中心に全国で展開をしていった。10年ほど前から経営が悪化し、知人の女性を経理部門に専務として雇った。
専務の女性は当時、性についての不安や悩み相談に乗る副業もしていた。ある日、障害のある20代の女性が相談しに来た。その話を聞いた専務の女性から「障害者の性には問題があるのではないか」と投げかけられ、問題に向き合うきっかけを得た。
専務の女性と一緒に障害者施設を回り、現状を聞くことに。施設の責任者らとの話を通じて、「20代以上の男女が時間を短縮する目的で同じ湯船に入浴させられた」「施設で妊娠していた女性が子どもを堕ろされている」など、さまざまな事例を聞かされた。ほかにも、50代の車いす生活者がある日、通っていた風俗店の待合室でほかの客に因縁をつけられ、後日、店の責任者から「二度とこないでください」と言われた事例も耳に。専務の女性と話し合い、2011年、障害者専門店を開業した。
とはいえ、店に対する需要は少ない。「小さいころから障害のある方が風俗店を使えないと考える人がいると思うが、啓発活動をしていけば(需要が)伸びる余地があるのでは」と。
一方、利用した関係者からは、「息子がすごく喜んでいる」「いままでこういうことをしたことがなかったが、〇〇さんすごくやさしい方で」と感謝の言葉を掛けられることもある。「赤字でも、需要があって働きたい人がいるという今はつぶすつもりはない」
性的な問題のクリアが「自立」にもかかわる
「障害者の性に関して日本は問題を抱えており、もっとオープンに話していかないと」と現状の社会を問題視。「障害者と性をタブー視する日本の大局は今のままでは変わらない。力を持っているマスコミや誰かが旗を上げないと壁は崩れない。障害者に関して、もう少し目を向けるような国になってほしい」と訴えた。
障害者は、決して遠い存在ではない。厚生労働省の「生活のしづらさなどに関する調査」によると、16年12月1日時点での障害者の総数は、936.6万人(身体・知的障害者は手帳所有者、精神障害者は手帳所有者と罹患者)で、人口の約7.4パーセントに相当する。一方、同省障害保健福祉部の担当者に、障害のある子を持つ親に関する性的介助の悩みなどについて統計をとっているか聞くと、「ここ数年ではしたことはない。(問題が)デリケートでお金がかかるし、中々難しい...。問題について障害者らからのニーズもない」と話していた。
『セックスと障害者』(イースト新書)の著書がある、一般社団法人ホワイトハンズ代表理事の坂爪真吾さんは、「性の問題は生活と全く無縁であるというイメージをいろんな人が持っていると思うが、そうではない」と強調。障害者の就労支援などが推し進められているが、「(障害者には)恋愛や結婚をいたいという思いがある。性的な問題のクリアは、障害者の社会的な自立にかかわる」と強調した。
※J-CASTニュースでは、引き続きこの問題について報道したいと考えています。情報提供、取材にご協力いただける方がおられましたら、otayori(アットマーク)j-cast.comまでメールください。
(J-CASTニュース編集部 田中美知生)