小学6年生の女子児童が男性教諭から胸を触られるなどのわいせつ行為を受けた、として両親が会見を開いて被害を訴えた。このニュースを朝の情報番組が「スクールセクハラ」というキーワードを使って紹介したところ、ツイッターには「言葉が軽い」といった批判が相次ぎ、タレントのフィフィさんら著名人も違和感を表明する事態となっている。
趣旨としては、「性的虐待」や「犯罪行為」といった言葉を使うべきだという指摘も多い。今回のようなケースでこのキーワードを使うことは「軽い」印象を与えてしまい、避けるべきことなのか。J-CASTニュースは、「スクールセクハラ防止」に約20年間取り組んでいる団体(現NPO法人)の代表に話を聞いた。
視聴者「明らかに性的虐待やん」「虐待をハラスメントとするのは如何なものか」
2019年1月31日、日本テレビ系の情報番組「スッキリ」は、「教師が『スクールセクハラ』 提訴 小6女児両親語った」とのテロップを出して、千葉県内の公立小をめぐる提訴事案を特集コーナーで紹介した。
30日に被害女児の両親が会見を開き、教諭や県などを相手取り、約1000万円の慰謝料・損害賠償を求めて提訴したことを報告した。小6の女子児童は、男性教諭から服の中に手を入れられて胸を触られた、といった被害を複数回受けたとしている。一方、教諭は励ますつもりで脇やあごを触ったことは認めたが、胸を触ったことは否定しているという。
番組では、「スクールセクハラに詳しい」として、神奈川大学の入江直子名誉教授のコメントを紹介。入江名誉教授は「今回のことは、ある意味典型的なスクールセクハラだと思います」と指摘した。また、スクールセクハラについて、中でも「大きな権力を持つ先生」が弱い立場の子供に対して行うセクハラが一番の問題だ、と解説していた。
こうした放送を受け、「スクールセクハラ」の言葉はツイッターでトレンド入り。批判的な受け止め方も多く、
「よくよく考えてみると児童への性的虐待じゃんね。虐待をハラスメントとするのは如何なものか」
「何がスクールセクハラだよ、明らかに性的虐待やん」
といった指摘が相次いだ。
文科省調査での「わいせつ」「セクハラ」の区別は
タレントのフィフィさんも反応し、
「(略)教師が身体を触り訴えている件を『スクールセクハラ』って報道してたけど、セクハラ?大の大人が女児の身体を触ってる状況ってわいせつ行為で、それが本当に起きていたとするなら法律で罰せられる案件じゃないの?(略)」
と違和感を表明した。また、ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんも
「『浮薄』 スクールセクハラ?言葉が軽い... 校内強制猥褻だと思う」
と指摘した。
こうした意見に対しては、
「スクールセクハラって言葉が軽いって言われてるけど、今までのセクハラは軽いことって認識でいいんですか?」
「スクールセクハラってどこが軽い言葉なんか分からないんだけど(略)」
と、決して軽い言葉ではない、との見方を示す人たちもいた。
ただ、今回のケースでは、「服の中に手を入れられて胸を触られた」(教諭側は否定)と報じられていることもあり、「セクハラ」の表現では軽く、「わいせつ行為」や「性的虐待」と表現するべきだと感じている人は少なくないようだ。実際、文部科学省がまとめた「わいせつ行為等に係る懲戒処分等の状況(教職員)」(2017年度)をみると、調査上の言葉の定義として、
「『わいせつ行為』とは、強制性交等、強制わいせつ(略)買春、痴漢(略)わいせつ目的をもって体に触ること等をいう」
とある一方、
「『セクシュアル・ハラスメント』とは、他の教職員、児童生徒等を不快にさせる性的な言動等をいう」
となっており、読み比べた印象では、「セクハラ」の方が「軽い」と感じる人が多そうだ。
スクールセクハラは「人権侵害行為であり、犯罪です」
ただ、「スクールセクハラ」という言葉には、学校という閉鎖空間(特に圧倒的な力や権力をもった教師と、弱い立場の子供との関係性)という特殊性から、一般的な「セクハラ」を超えた意味合いが込められているようだ。
約20年前から活動している「スクール・セクシュアル・ハラスメント防止全国ネットワーク」(2008年にNPO法人認可)の亀井明子代表にJ-CASTニュースが31日、話を聞いた。
今回の千葉のケースを伝える際、「スッキリ」が「スクールセクハラ」の言葉を使って報じたことについては、「適切で当然のことだと思います」と話した。
「スクールセクハラ」という言葉は、強姦など凶悪な犯罪も含めて使われているもので、軽いどこか、むしろ「スクールセクハラとは、(略)人権侵害行為であり、犯罪です」(同ネットワークの公式サイト)と厳しく指摘している。
文科省調査の定義にもあったような一般的な印象の「セクハラ」よりも、「スクールセクハラ」には凶悪犯罪も含めた広い範囲の行為が含まれていることについては、被害にあった子供たちが声をあげやすくする目的もあるという。子供たちが被害の声を上げにくいという状況は大人が想像する以上で、たとえば教師への恐怖心から、あるいは「指導のため」という説明を信じてしまうことから、など様々な障壁がある。
これまでの使用例は?
こうした被害者の立場に立つと、「スクールセクハラ」という言葉を使い、定着させることで、その意味するところは範囲が広くなってしまうが、たとえば強姦被害などの声をあげることが難しいケースでも、「スクールセクハラ」として相談しやすくなると考えている。
もっとも、「『セクハラ』より『わいせつ行為』の方が、より悪質だと感じる」という個人の語感や、「わいせつ行為」と報じるメディア(朝日新聞や千葉日報のネット版など)に対しては、「何か注文をつける立場ではない」ともしている。そのうえで、最後に
「『スクールセクハラ』という言葉をもっと多くの人に知ってもらいたいし、一般的な『セクハラ』との違いや、学校で起きる被害の特殊性についても考えてほしい」
と訴えた。
「スクールセクハラ」に関しては、書籍では『スクールセクハラ なぜ教師のわいせつ犯罪は繰り返されるのか』(2014年、池谷孝司、幻冬舎)や、『スクール・セクハラ防止マニュアル』(01年、田中早苗、明石書店)などがこれまでに出版されている。
行政でこの言葉を使っているところもあり、たとえば神奈川県教委は、「STOP!ザ・スクール・セクハラ」という教職員向け資料を2011年に作成しており、現在もホームページで公開している。