「支配率23%」サウジ戦は「計画された防戦」だった 単なる苦戦とはここが違う

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   サッカー日本代表が、アジアカップ決勝トーナメント1回戦・サウジアラビア戦で「ボール支配率(ポゼッション)23%」という稀に見る低い数字を記録したことが、議論を呼んでいる。試合の77%の時間でボールを持っていたことになるサウジアラビアは、何度も日本陣内に攻め入り、日本は守る時間が長くなった。

   勝利した日本だが、あまりのポゼッションの低さから「苦戦」と見る向きも少なくない。だが、サッカー分析家の五百蔵(いほろい)容(ただし)氏はこの試合を「計算された防戦だった」と分析している。森保ジャパンの狙いは何だったのか。五百蔵氏に見解を聞いた。

  • 主将、DFリーダーとして日本代表を支える吉田麻也(2018年撮影)
    主将、DFリーダーとして日本代表を支える吉田麻也(2018年撮影)
  • AFCが公式サイトで公表している日本対サウジアラビア戦のスタッツ
    AFCが公式サイトで公表している日本対サウジアラビア戦のスタッツ
  • 主将、DFリーダーとして日本代表を支える吉田麻也(2018年撮影)
  • AFCが公式サイトで公表している日本対サウジアラビア戦のスタッツ

現日本代表には「大方針」がある

   2019年1月21日に行われたサウジアラビア戦。アジアサッカー連盟(AFC)が公表しているデータによると、日本のポゼッションは23.7%、サウジアラビアは76.3%だった。これに比例するように、シュート数は日本5本に対し、サウジアラビアは15本にのぼった。

   ポゼッションは、試合を通じてチームとしてボールを持っていた時間の割合を示す指標。互いに40~50%台ずつ、低くても30%台後半で落ち着くのが一般的だ。

   バルセロナ(スペイン)のようにパスサッカーを志向するチームで、実力差があれば70%台に届くこともあるが、日本が同じアジアのライバルであるサウジアラビア相手にここまで低くなることを予想できた人は多くない。「23%」という数字が公表されると、これを根拠に「苦戦」と報じるメディアも一部であったほか、ツイッターでも「それだけ苦戦したんだろ」などの声があがった。

   だが結果を見れば、日本は1点を守り切って完封勝利している。

   このサウジアラビア戦を「計画された防戦」と見るのが、サッカー分析家として複数の著書を持つ五百蔵氏だ。アジア杯ではニコニコ生放送の番組「森保ジャパンの『戦術』を読み解く実況解説」で解説を務めている。その五百蔵氏はJ-CASTニュースの取材にこう話す。

「基本的に森保一監督の日本代表は、『相手が日本にやられたら一番イヤな戦術を採用し、それをやり通す』という大方針を持って戦っていると思われます」

「計画的な防戦」の実態

   今回の試合を見ていく。まずサウジアラビアの攻撃を「ボールポゼッションとビルドアップ(=ラストプレーまでのボール運び)は極めて組織化されていました」とする一方で、「中央突破の方法をほぼ持っておらず、サイドからの攻めに偏っている」ことと、「相手ゴール前までボールを運べてもなかなか決めきることができないというデータが出ていた」ことを指摘する。

   これに応じて「やられたら一番イヤな戦術」を考えていく。日本の守備は「ビルドアップのポイントを抑えてプレッシャーを与え、自由なボール運びをさせない」ことと、「サイドからクロスを送られても、ゴール前の守備の準備が整っている状態で待ち構えられるようにする」ことが基本線だったと分析。さらに、ボールを奪ってからの攻撃は「攻め上がっているサウジアラビアのサイドバックの裏に空いたスペースを突くカウンター」を狙いながら、「高さ(上背)で上回るのを生かしたセットプレー」にもチャンスを見出していたとみている。

   実際、上記のようにシュート数はサウジアラビアの方が多かったものの、「枠内シュート数」だけで見れば、日本が2本に対し、サウジアラビアは1本どまりだった。中央で固める守備組織が機能していたと見ることも可能だ。

   試合が動いたのは前半20分。実際にセットプレー(CK)からDF冨安健洋(20)が先制点を奪った。これがその後の試合運びを強く方向付けたと、五百蔵氏は考えている。

「0-0の状況が長く続けば、日本はもう少し高い位置でサウジアラビアにプレッシャーをかけ、ボールを奪う試合運びを選択したと思います。けれども、狙っていたセットプレーで早い時間に先制できたので、その必要が無くなりました。

日本は、サウジアラビアを日本の陣地に計画的に引き込み、先ほども言った『サイドバックの裏のスペース』を可能な限り広く、長く空けさせてカウンターをし、時間を使う――という試合運びを選択しました。これが、サウジアラビア戦での日本代表の『計画的な防戦』の実態と思われます」

防戦「一辺倒」にならざるを得なかった理由

   ポゼッションが落ち込むのも必然だったようで、「計画的な防戦が試合を通じてうまくいったため、日本があえて攻撃的に打って出て、カウンターを食らうリスクを冒す必要がなかった、というのが支配率が低くなった最大の要因と思われます」と話す五百蔵氏。ただ、「23%」まで低くなったのは、もう1つ原因があると考えている。

「日本の陣内にサウジアラビアを引き込むだけでなく、ボールを取り上げてサウジアラビア陣内に押し込み、時間とエリアを有利に使いつつ、反撃を受ければまた自陣に引き込む戦略に切り替える――といった柔軟で緻密なチームプレーを徹底するほどの練度が、現時点での森保代表にはない。だからこそ『計画された防戦』一辺倒で戦うという選択を、サウジアラビア相手には取らざるを得なかったという側面もあったかと思われます」

   こうして数字で表れたポゼッションの低さだが、これだけを切り取って評価はしていないという。上記のように、「相手にとって一番イヤな戦術をやり通す」というのが森保ジャパンの大方針と考えているためだ。24日に行われる準々決勝・ベトナム戦に関しても、

「ボールを取り上げてしまうことが一番の対策だ、と森保監督が判断すれば、日本がボールを持つ戦いを選択すると思われますので、自然に『ボール支配率』は上がると思います。支配率の低さの解消自体をチームの問題解決として特に目指してはおらず、選択する戦術次第で高くもなるし低くもなる、ということになるかと思われます」

との見解だった。

(J-CASTニュース編集部 青木正典)

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