ここに通い続けて、4日目になる。
民主主義の根幹を問う青年が、ハンガーストライキを続けている沖縄県の宜野湾市役所前だ。
昨年、条例制定に必要な9万を超える署名を集めた「『辺野古』県民投票の会」の代表を務める元山仁士郎さん(27)が、2019年1月15日から、ハンガーストを始めている。
「身体を張るしかない」
昨年10月、元山さんらの集めた署名にもとづく県民投票条例が沖縄県議会で可決され、その後、2月14に告示、2月24日の投票が決まった。
だが、県内でも人口の多い沖縄市やうるま市、宜野湾市、それに宮古島市や石垣市の5つの市議会が投票にかかる予算を否決し、相次いで不参加を表明した。
地元出身の元山さんは不参加を表明した何人かの市長とも面会して翻意を促したが、いずれも受け入れてはくれなかった。投票の延期や、選択肢を「賛成」「反対」の二択から
「やむを得ない」「どちらとも言えない」を加えることを要求する首長もいるが、玉城デニー知事は、二択のまま予定通りの県民投票を決断した。
とすると、投票事務の準備を考えれば今週が山場となる。
「身体を張るしかない」
元山さんは、覚悟を決めた。
いま、若者の間で基地問題について声をあげることははばかれる。生まれたときから基地があり、基地と共存している若者やその家族も少なくない。基地反対の声をあげれば、傷つく人がたくさんいる。声をあげないで生活することが、対立を避ける処世術であることが、大人の社会を見て育った彼らには染み付いている。葛藤の中で彼らは生きている。沖縄で基地を語ることは苦しいことなのだ。
でも、これ以上の基地の負担を押し付けられることに、違和感を覚える。
「自分たちのことは自分たちで決めたい。私たちの民意はどこにあるのかをはっきりさせる最後のチャンスだ」
葛藤の殻を破ろうと立ち上がったのが元山さんら若者たちだ。県民投票を呼び掛けて街頭で署名集めを始めた。各市町村に出向き、全市町村で条例に必要な50分の1を超える署名を集めた。
村本大輔さんが「勇気をもらった」
最近になって、宮崎政久衆院議員が、各市町議会議員を集めた席で、「議会として予算案を否決することに全力を尽くすべきだ」との文書を配布したことが明らかになった。
宮崎氏は会見で、「反対するよう説いて回ったことはない」と、働き掛けを否定したが、「否決することに全力を尽くすべき」
と書かれた文書を配布した事実は否定できない。
結果的には住んでいる地域によって1票を投じる権利が奪われることになる。もちろん基地に賛成する人の1票もだ。いわば「大人の事情」によって、やっとこぎ着けた県民投票が、骨抜きになってしまう状況に陥っている。
元山さんは、15日の早朝からハンストに入った。
「署名に応じてくれた人たちの思いを無駄にはできない」
翌日、政治を風刺する漫才を手掛けるウーマンラッシュアワーの村本大輔さんが駆けつけた。
「勇気のいることだよね」と村本さん。
「僕らが大人になって、子供たちに尋ねられたとき、きちんと答えたい。沖縄は分断を乗り越えなければならない。議論を深めていけば乗り越えられるのではないか」と元山さん。
ものを言えば批判され、それを乗り越えようとしているふたりの会話は、30分近くに及んだ。
「勇気をもらった」
そう話したのは村本さんの方だった。
街宣車の前で仁王立ち
早朝から深夜まで、署名をしに来る市民があとをたたない。足を引きずりながら訪ねてくるお年寄りや、子供を連れて夫婦で署名に訪れる家族もいる。
体力の消耗を考えればテントで横になっていて然るべきだが、元山さんは立ち上がって激励を受けて会話を交わす。
クラクションを鳴らして激励する車も少なくない。もちろん基地容認派の若者も議論をしにやってくる。
3日目になって右翼の街宣車がやってきた。市役所前の敷地の許可を取っているのかを問うている。
テント内で休んでいた元山さんは、表に出てきて仁王立ちで立ち続けた。
「署名に来てくれる人たちが不安にならないように毅然と対応しなければならないと思った」
4日目の18日。元山さんの体力は明らかに落ちている。定例の会見にも、椅子に座ったままだ。それでも気丈に歩いて移動する。医師の指示で、夕方、病院に向かった。
それにしても、27歳の若者が身体をかけてまでハンストしなければならない沖縄の状況、いや日本って、何なんだろう。
(ノンフィクション作家 辰濃哲郎)