婚姻届の夫婦欄にそれぞれ名前を書き、現れた女性カップル。東京都中野区の大江千束さん(58)と小川葉子さん(55)は、2019年1月17日、同区役所に書類を提出した。
「一応私が年上で夫欄は私ですが、こういったすみ分けは面倒だなと思った」と大江さん。窓口で2人は同性同士だとして「不受理になる」と告げられたという。「同性婚できないのは憲法違反」などとして、2月に複数のカップルらとともに国家賠償請求訴訟を起こす。
「戸籍上女性なので受理はできない」
役所の窓口で、「戸籍上、2人は女性なので受理はできない」と担当者から説明を受けた。横で男女のカップルが婚姻届を提出しているのを目にし、「平等はないとわかってはいながらも、現場で突き付けられた感覚があった」と肩を落とし、「一般市民扱いされない。同性同士であっても結婚の選択肢のスタートラインに立てない」と疑問視した。
大江さんは子供のころから音楽が好きで、クイーンなどのバンドにのめりこんでいくのを通じて、自身がレズビアンだと認識。小川さんは高校入学ごろから、うっすらと認識していたが、30代くらいに受け止められるようになったという。
2人はレズビアンらが集まる交流会で出会った。付き合い始めたのは93年ごろで、交際を始めてから20年以上。ともに団体職員で、性的マイノリティの支援をする団体「LOUD(ラウド)」の代表と副代表もそれぞれ務めている。
昨年9月、結婚に相当する関係として承認する、中野区のパートナーシップ制度の第一号として受領証を受け取った2人。原告として臨む理由について、「国がどう動くかが大きな課題。司法がどのような判断を下すのか知りたい。好きな人がいたら結婚選択の余地がないことが不思議に思っていた。これから長く戦いは続くが、最後までやっていきたい」と訴訟への思いを語った。
「婚姻」と「パートナーシップ」、何が違う
婚姻に準ずる関係として自治体が公に承認するパートナーシップ制度は全国で導入が進んでいる。性的マイノリティが働きやすい職場づくりを目指すNPO法人虹色ダイバーシティによる昨年(2018年)11月30日の調べによると、パートナーシップ制度を実施している自治体9つで、319組のカップルが登録。
だが婚姻に比べ、法的利益を受けられないことが多いとされている。
「一番大きいところは、婚姻は、夫婦・家族として法的に手厚い保護がなされ、当事者間でも法的権利義務関係が発生するのに対して、パートナーシップ制度では、全く法的拘束力や法的権利義務関係は発生しません」。こう指摘するのは、性的マイノリティの問題に詳しい早稲田大学法学学術院の棚村政行教授(家族法)だ。
棚村教授によれば、婚姻である場合、所得税の配偶者控除や扶養控除を受けられるが、パートナーシップ制度では法的関係がないため受けられないという。「国民年金や健康保険の配偶者とされることもない。離婚の際の財産分与や年金分割も受けられない」としている。
一方で、同性パートナーシップ制度では「せいぜい、生命保険の受取人になることができるほか、携帯の家族割引、企業や市役所での福利厚生や市営住宅への入居が認められるなど、きわめて限定的な保護に限られる」と指摘。パートナーシップだと公に証明する書類を発行する自治体で限られた恩恵を受けることができても、「一般的に夫婦としての権利や扱いが認められたわけではない」と話す。
憲法24条では、「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」と規定している。今回の同性カップルらが起こす訴訟の争点について棚村教授は「憲法24条でいう『両性』に同性婚カップルは含まれるか、同性婚を排除していることは違憲であり、法改正を放置していることは国会の職務怠慢といえるかが争われる」と説明していた。
(J-CASTニュース編集部 田中美知生)