日本とロシアの平和条約締結交渉加速に向けて2019年1月14日(現地時間)にモスクワで開かれた外相会談は、早くも両国の立場の大きな違いが露見した。
日本はこれまで、北方領土はロシアが「不法占拠」しているという立場を維持してきたが、ロシア側は主権について「議論の対象ではない」ことを、国連憲章の「敵国条項」まで持ち出しながら主張。仮に交渉を進めるとなれば、日本政府としては従来の立場を大幅に転換せざるを得ない可能性もあり、「踏み絵」を迫られる。
日本側の反論は「なかった」とロシア外相
ロシアのラブロフ外相は河野太郎外相との会談後に開いた記者会見で、
「日本の友人たちに、島の主権は議論の対象ではないということを指摘した。ロシアの領土だ」
「本日、1956年の(日ソ共同)宣言に基づいて作業を始める用意があることを確認した。これは、何よりもまず、最初のステップを動かさない、ということを意味する。つまり、日本側が、南クリル(北方領土のロシア側の呼称)全島の主権がロシアにあることを含めて、第2次世界大戦の結果を完全に認めることだ」
などと主張。日本側の呼称「北方領土」についても、「ロシアとしては、もちろん受け入れられない」とした。
さらに、第2次大戦の結果を示す枠組みには、サンフランシスコ平和条約以外にも、1956年の(日ソ共同)宣言や国連憲章の第107条があることを指摘。第107条は、いわゆる「敵国条項」のひとつで、
「この憲章のいかなる規定も、第二次世界大戦中にこの憲章の署名国の敵であった国に関する行動でその行動について責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は許可したものを無効にし、又は排除するものではない」
などとして、第2次大戦の結果を受け入れるように求める内容だ。国連憲章はソ連が日本に宣戦布告する前の1945年6月26日に署名されていることもあって、ロシア側はこれまでも、北方領土の主権を主張する根拠として言及してきた。
ラブロフ氏はこういった点を年頭に、
「この点を日本側に繰り返し指摘したが、反論はなかった」
と話した。
鈴木宗男氏、両外相の発言「噛み合っている」
日本側の北方領土に対する立場は
「ロシアによる不法占拠が続いていますが、日本固有の領土であり、この点については例えば米国政府も一貫して日本の立場を支持しています」(外務省ウェブサイト)
というもので、菅義偉官房長官は1月15日午前の記者会見で、
「政府の法的立場には変わりない」
と発言。現時点では「不法占拠」だという立場を維持している。
ただ、この展開を必ずしも悲観視していないのが、新党大地の鈴木宗男代表だ。鈴木氏は、歯舞、色丹の先行引き渡しに加えて、残る国後・択捉への自由往来や共同経済活動を組み合わせた「2島+α」が持論。1月15日に更新したブログでは、両外相が個別に開いた記者会見で、お互いに「ロシアの主張を伝えた」「日本の立場を伝えた」などと発言したことを「噛み合っている」と評価。
「両外相を交渉責任者と決めてから初めての交渉である。なによりも順調にスタートしたことが重要である」
と、交渉が始まったこと自体を評価した。
1月22日に日ロ首脳会談を控えており、どういった形で交渉が進展するか注目される。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)