2018年、揺れに揺れたスルガ銀行(静岡県沼津市)。2019年の課題は、やはりまず「脱創業家」となる。
シェアハウス関連融資を巡り、外部の弁護士で構成される危機管理委員会を設置してから1年弱。創業家の退陣や一部業務停止、1000億円の純損失などに発展したスルガ銀が「一定の区切り」とすべく取り組んでいるのが、旧経営陣への訴訟だ。だが、スルガ銀と「一心同体」だった創業家との関係を断ち切ることは簡単ではなく、その道は険しい。
一族がかかわる法人は30以上
スルガ銀は2018年12月27日、創業家ファミリー企業向けの不適切融資で損害を受けたとして、岡野光喜元会長ら旧経営陣5人に総額32億円の損害賠償を求める訴訟を静岡地裁に起こしたと発表した。
ファミリー企業向け融資を調べていた取締役等責任調査委員会(委員長・小沢徹夫弁護士)が公表した調査報告書によると、岡野一族が経営に実質的に関与したり、一定の影響力を及ぼしたりしている法人は30社以上ある。これらを実質的に動かしていたのは、光喜氏(元頭取の岡野喜一郎氏の長男)の実弟である元副社長の喜之助氏(同次男、2016年7月死去)と、喜一郎氏の三男。三男にはスルガ銀の勤務経験がない。
ファミリー企業の直近の財務諸表などによると、光喜氏や喜之助氏ら個人に対し、60億円超の貸付債権がある。ファミリー企業によるスルガ銀の借入債務は一時約1200億円に上っていたが、その後は削減に取り組み、2018年3月末時点では10社488億円になっている。
調査委員会が問題視したのは、スルガ銀が2015年11月に行った自己株式取得を前に、あるファミリー企業が保有するスルガ銀株の担保が解除された点だ。
問われるのは新経営陣の覚悟
ファミリー企業は株式売却代金として41億円を受け取ったが、このうち債務の弁済に当てられたのは18億円にとどまり、残りはファミリー企業間を資金移動して、一部は喜之助氏の個人口座に送金された。担保解除決定や回収額については、喜之助氏の意向が反映された。
もう一つは、2012年以降、美術館を運営する一般財団法人(ファミリー企業)に対して行ったスルガ銀による寄付が、美術品や不動産の売買を通じて一部のファミリー企業に流れ、スルガ銀からの借り入れの返済に使われていた点だ。おおむね半年に一度の割合で、6億円ずつ、美術品や不動産の取得を目的に寄付した。こちらも喜之助氏が大きな役割を果たしたとみられる。
これらの問題について、調査委は光喜氏▽喜之助氏▽白井稔彦元専務▽望月和也元専務▽八木健取締役の計5人について、善管注意義務違反を認定した。これとは別に、2018年11月にはシェアハウス融資を巡って新旧経営陣9人に総額35億円の損害賠償を求める訴訟を起こしている。
スルガ銀は、民事上の責任を追及することで「脱創業家」の流れを作りたい考えだ。だが、全容の解明が困難だとして特別背任などの刑事責任は見送る。スルガ銀を創業し、社内外で大きな影響力を持っていた創業家は、関係会社や団体が大株主として保有する計15%超の株式については売却する意向とされるが、真に岡野家の呪縛を解くことができるのか。有国三知男社長ら新経営陣の覚悟が問われそうだ。