保阪正康の「不可視の視点」
明治維新150年でふり返る近代日本(27)
『国体の本義』から読み解く天皇の位置づけ

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兵士を「神」にすれば人間として扱わなくてよくなる

   そのうえで「第一 大日本国体」の章から、順次解説を加えていく。この章の最初は「肇国」で、この説明は大日本帝国の始まりから記述していく。「大日本帝国は万世一系の天皇皇祖の神勅を奉じて永遠にこれを統治し給ふ」という表現が全てを語っている。この冊子は本文156ページであるが、その内容はこの点に凝縮している。先に紹介した引用文はこの天皇制の根拠を示し、そのうえで八紘一宇の精神を説くのである。

   この「国体の本義」と「戦陣訓」、そして1943(昭和18)年に陸軍の教育総監部から出された「皇軍史」の3冊を読んでいくと、陸軍の考えている大まかな軍事学がわかる。さらに軍事学に何が欠落しているのか、それがわかってくる。さしあたり国体の本義に目を通していけば、皇軍は神の軍隊、つまり天皇という神に仕える神兵、それはこの世に特別の役割を与えられて存在するというのであった。その役割を自覚させるのが、前述の3冊の書であった。

   兵士を神とした瞬間に、軍事指導者達は兵士を人間として扱わずにすむことを知った。だからどのような作戦も命じることができたのだ。そこを分析していかないと日本軍の本質は浮かんでこない。(第28回に続く)




プロフィール
保阪正康(ほさか・まさやす)
1939(昭和14)年北海道生まれ。ノンフィクション作家。同志社大学文学部卒。『東條英機と天皇の時代』『陸軍省軍務局と日米開戦』『あの戦争は何だったのか』『ナショナリズムの昭和』(和辻哲郎文化賞)、『昭和陸軍の研究(上下)』、『昭和史の大河を往く』シリーズ、『昭和の怪物 七つの謎』(講談社現代新書)など著書多数。2004年に菊池寛賞受賞。

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