FA(フリーエージェント)で広島から巨人に移籍した丸佳浩外野手(29)が2019年1月10日、丸の人的補償で広島に移籍した長野久義外野手(34)と電話で話したことをメディアに明かした。スポーツ紙などの報道によると、長野の移籍を知った丸が長野に電話をかけたという。会話の詳細は明かされなかった。
内海哲也投手(36)の西武移籍に続いて球界に衝撃を与えた長野の広島移籍。当事者である丸もまた巨人の生え抜きベテランの移籍に「びっくりしました」と話す。この事実を知った丸は早速、米ロサンゼルスで自主トレ中の長野に電話を入れたという。自身の人的補償によって移籍せざるを得なかった長野に対する礼儀としての直電だと推測されるが、内容については明言を避けた。
今回と重なる41年前のあの事件
この2人のホットラインに巨人の球団関係者らは安どの声を漏らしたという。ルール上、何ら問題はないとはいえ、人的補償として指名された選手に事実上、拒否権はない。拒否した場合、残される道は引退のみで、いわば球団の意のままに半ば強制的な移籍となる。41年前、まさにこのケースと同じような「事件」が起こった。球界の負の歴史として語り継がれる「空白の一日」事件だ。
1978年11月、当時の野球協約の死角をついて巨人が江川卓氏と選手契約を締結した。だがセ・リーグはこれを認めず結局、江川氏と巨人の契約が無効となり、その年のドラフトで阪神が交渉権を獲得。阪神はプロ野球実行委員会の要望もあり、巨人とのトレードという形で江川氏を放出した。ここで悲劇が生まれる。
巨人がトレード要員として指名したのは、当時エース格の小林繁氏だった。江川氏は巨人入団に際して遺恨を残したくないとして金銭トレードを望んだというが、それは叶わなかった。高校、大学での実績はあったがプロのマウンドに立ったことのない江川氏と、巨人のエース格の小林氏を天秤にかけたトレードは、江川氏と巨人に非難が殺到し、社会問題に発展した。
「請われて阪神に行くのだから、同情はされたくない」
事件の当事者である2人は現役時代、言葉を交わすことはなかったという。 2人が和解したのは2007年秋。日本酒のCMに江川氏と小林氏が共演し、現役当時を振り返りながら杯を交わすものだった。「空白の一日事件」から28年ぶりの和解だった。
FAとトレードによる違いはあれど、両者に共通するのは事実上の強制的な移籍。巨人を牽引してきたプライドもあったのだろう、球団を去る際の小林氏と長野のコメントには心情的に重なるところが垣間見ることが出来る。
「請われて阪神に行くのだから、同情はされたくない」(小林氏)
「自分のことを必要としていただけることは光栄なことで、少しでもチームの勝利に貢献できるように精いっぱい頑張ります」(長野)
球界を大きく揺るがした今回のFA人的補償問題。長野と丸、両者が歩み寄ることで、選手間においては一応の着地点を見出したようだ。