新年早々、ちょっと風変わりなNHK報道があった。1月8日(2019年)の「山梨大学 学長の年頭あいさつ『韓国 異様な反日政策』で反響」である。
一応客観的な書きぶりで、「山梨大学の学長が年頭のあいさつで、韓国について『異様な反日政策をとっている』などと発言したことに、インターネット上ではさまざまな意見が出ています」と、インターネットでの出来事を「報道」している。
たしかに、インターネットではそうであるが、メディアが他のメディアを引用するときは、ちょっと気をつけたほうがいい。
本年度予算について「前年末に決まらないのは極めて問題だ」
山梨大学の島田眞路学長の挨拶文の全文は、山梨大学サイトに出ている。それを読むと、たしかに、
「不穏といえば、韓国もレーダー照射、徴用工問題、従軍慰安婦など異様な反日政策をとっています」
とあるが、韓国だけではなく、世界各国の国際情勢にも言及され、まさに、世界情勢を客観的に語っている。
挨拶の中では、山梨大学に関わる部分も少なくない。世界情勢に関する部分は挨拶の枕でしかない。挨拶の主要部分である「本年度予算」については、「前年末に決まらないのは極めて問題だ」とした上で、
「私は以前から国立大学協会で、運営費交付金の件に関して『財務省と戦って引き上げるべき』と発言していますが、このところやっと会長でもある京都大学の山極総長が財務省と戦う姿勢を見せています。このまま実質上減少していけば、山中先生、大村先生、大隅先生、本庶先生のようなノーベル賞はもう望めなくなります」
と語っている。
島田学長も、この部分が取り上げられないで、枝葉の「韓国 異様な反日政策」と報じられるのは心外だろう。
つまり、NHK報道は、挨拶全文の「切り取り」であり、それはNHKの都合なのだ。そこで、客観的に振る舞うために、インターネットで話題になっているという「事実」の紹介という体裁だ。
学長は以前から「運営費」に言及
報道するなら、国立大学協会と財務省とのバトルの方だろう。昨年10月16日朝日新聞で「日本の研究力低下、悪いのは...国立大と主計局、主張対立」という報道もある。
実は、島田学長がこの論争の火付け役だった。2017年4月3日、日経の経済教室に「国立大の運営費交付金、削減政策は誤り 増額を 島田真路山梨大学長」という投稿もしている。
この投稿は学者の意見表明とは言え、かなり大胆な話をしている。その内容もかなりまともである。ちなみに、筆者は、研究開発、教育資金の確保について、「教育国債」をかねてから主張しており、本コラムでも、「教育国債で研究開発予算の増額を」があり、そこで教育国債というアイディアはもともと財務省にあったことも明らかにしている。島田学長は、教育国債にも賛同されている。
まさかありえないだろうが、島田学長のようなまともな考えを持つ人を、NHKが筋違いのあら探しで世間の批判にさらそうとしているなら、とんでもないことだ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「『年金問題』は嘘ばかり」(PHP新書)、「図解 統計学超入門」(あさ出版)など。