「空耳」、見てみたら面白かった
――そんな中、2007年頃にニコニコ動画で突然公演の空耳動画が流行り始めました。
片岡:あれは知った時、見てみたらすごく面白かったんですよ(笑)。僕は削除要請しようと思えばできたし、関係者の間でも激論になったんですが、これはスルーしようと決めました。もちろん著作権法上は違反しているんだけど、ユーザーは面白がってやっているし、直接的な損失はないんです。だから、せっかく楽しんでいるからいいのかな、と。
また、アップされていた氷帝戦の舞台は柳くんが03年12月に生死をさまよう大事故に遭ってから、初めて1人で越前を演じきった公演だったので、悲劇性をも帯びた熱さがありました。その中でも手塚国光役の城田優さんと跡部役の加藤和樹さんが重要な役どころで、二人ともものすごく歌がうまい。その二人による跡部と手塚のマッチが直前にあって、(空耳が流行した)クライマックスの日吉戦の歌「あいつこそがテニスの王子様」が始まるので、すごく熱くてファンの印象に残る場面なんですよ。そういった事情も(ニコ動でのブレイクに)影響したのではないかと。
――結構下ネタのような空耳もあって、もともとのテニミュファンの間でも賛否両論あるようです。
片岡:これもある種の同人文化なのかもしれないですね。確かに許しがたい表現かもしれませんが、許斐先生から特に何か言われたこともなく、ファンは自分の見方に染めて味わいたいと思うので、それを無理に制限したり拒絶したりすることはないんじゃないかと思いました。
――その空耳ですが、間違って面白く聞こえてしまう理由に、はっきり言えば役者の歌唱力の問題もあるんじゃないかという印象を受けましたが......
片岡:確かに歌の下手な人はいます(笑)。フルコーラス全部外して歌ったりとか、かなり特訓もしましたよ。他にも運動神経の悪い役者もいたりします。でも技術よりもっと大事なことがあるというのが僕の持論です。
――それはテニミュではやはり「キャラクターらしさ」でしょうか。
片岡:それよりもまず「熱」ですね。キャラクターになりきりたい、この役を大切に思って、ものにしたいという気持ちです。その熱気の総量が舞台の熱量になります。その次に来るのがキャラクターになりきることで、稽古場にはいつもマンガ全巻を置いて役者が研究できるようにしていました。気持ちがあれば技術は後からついてくるし、そうした様子をファンは「成長している」と応援したくなるのが心理です。
――そうして経験を積んだ俳優には城田さんや加藤さん、さらに古川雄大さんや宮野真守さんなど、トップアーティストがたくさん居ます。彼らにどんな影響を与えたと思いますか。
片岡:垣根のない活躍ができるきっかけになったと思います。今はボーダーレスの時代で、俳優個人としても、いろいろなジャンルでディープに活躍できる「タコツボ」を持っている方がいい。例えば宮野くんも声優に舞台に音楽とマルチなエンターテイナーになっています。また初演の頃からアニメ楽曲のアーティストをテニミュに起用するなどして「舞台はアニメと別物じゃなくて、一緒に楽しんでほしい」というメッセージを込めていました。
――ボーダーレスといえば、テニミュではライブも積極的に開催しています。
片岡:もっと俳優個人のスキルや個性を披露して楽しんで観てもらいたかったし、公演の間隔が数か月空くその間でも何か情報を発信したい、またキャストの卒業を祝う特別な場にもできないかと考えて、年1回はライブを開催することにしましたね。