テニミュ仕掛け人が語る「空耳」と「2.5次元」誕生 2次元×舞台×ネットはこうしてつながった

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実は別の作品のはずだった「テニミュ」

――その後も「姫ちゃんのリボン」「HUNTER×HUNTER」などいくつかの漫画を原作とするミュージカルを手掛けられて、03年に「テニミュ」が始まります。

片岡:実は最初「HUNTER×HUNTER」の続演をやる予定だったのですが、諸事情で制作中止になってしまったんです。で、代わりになにか上演できないかということで、集英社から話があったのが「テニスの王子様」で、これはすごく大衆性があるなと思いました。

――先ほど話があった、若者が好きな「マンガ」「音楽」「スポーツ」の三要素がすべて詰まっていますね。

片岡:スポーツって非常にシンプルで勝った・負けたがわかりやすくてドラマがあります。それでテニミュの初演を手掛けた時は、それまでとは違う確信がありました。
また今思うと許斐剛先生の描くマンガが、時代を先取りしていたんです。それまでのスポーツ選手に求められるものは、汗と涙や努力といった泥くさいものでした。でも許斐先生は「かっこよさ」を追求しました。どのキャラクターもかっこよくイケメンに正面から描いたのは「テニスの王子様」が初めてだったと思います。
今や羽生結弦選手や錦織圭選手みたいに、男性のスポーツ選手に普通に(テニミュの登場人物と同じように)かっこよさを求める時代になっていますよね。だから時代の旬を捕まえたという自信はありました。

――プロデューサーの片岡さんの他にも、各分野から多才な方が結集されました。

片岡:脚本・作詞の三ツ矢雄二くんに、作曲の佐橋俊彦さんと演出・振付の上島雪夫さん。それに、僕と一緒に舞台制作をずっとやってきた松田誠くん(現ネルケプランニング代表取締役会長)。この5人の仲間で作り上げてきた作品です。誰がどの仕事をやったという区切り意識はあまりなく、本当に様々な意見をぶつけあって、喧々諤々の議論もして一緒に作ってきました。

――後に「空耳」で有名になる三ツ矢さんの歌詞が特徴的ですね。

片岡:三ツ矢くんは声優として、アニメの現場で一緒に仕事をしてきた仲間ですが、僕とぜんぜん違う角度から世界が見えていて、僕の感覚とはまるで違う言葉が出てくるんです。例えば人が「きれい」と思う時に「ガラスみたい」って言ったりする。え?どういうこと?と思うけど、歌詞にするとぴったりはまる。例えば跡部景吾のナンバーに「俺様の美技にブギウギ」があります。「俺様の美技に酔いな」ってマンガ原作にあるセリフですけど、それを音楽の「ブギウギ」と組み合わせるって発想がちょっとありえない。すごいと思います。
演出面では上島さんの、テニスの試合中のボールの行ったり来たりを照明の光で表現する演出も、もう彼の発明といっていいくらい素晴らしいものです。

――初演での客席の反応がすごかったようですね。

片岡:初日は空席が目立ったりもしましたが、幕が開いて青学の9人のシルエットが浮かび上がったら溜息が出たんです。幕間休憩になるとお客さんが皆ロビーに出て、当時SNSもなかったから(笑)、一斉に携帯電話で話し始めたんです。「もう、まんまだよ」って。それくらいキャラクターらしさにこだわりました。興行的には赤字でしたが、尻上がりに動員が良くなっていったので、シリーズを続けようと決めました。

――「キャラクターらしさ」は、今、2.5次元のどの舞台でも重視されることですね。

片岡:アニメ制作の経験から、キャラクターを原作通り正確に描くことがどれほど大事かというのはわかっていました。生身の人間が演じても「キャラクターらしく見えること」を大切にすれば原作ファンも受け入れてくれるだろうと。だから髪型や身長まで細かくこだわりました。そんな中でも例えば、アニメでは黒髪の跡部の髪をシルバーがかった色にするといった、舞台映えする工夫もしています。

――キャストは当時無名の俳優の方々でした。

片岡:無名の俳優を起用するのも、キャラクターにこだわる一環です。すでに売れている人だと、その人個人のイメージとキャラクターのイメージが対立してしまう。俳優の人となりについてもそのキャラクターに近い人を見極めようとしました。
例えば初代越前リョーマ役の柳浩太郎くんをオーディションした時、彼の体型を見てみたくて「(上半身の)服を脱いでくれない?」って聞いたんです。そしたら、上下全部スウェットを脱いでパンツ一丁になろうとした。だから「いやいや全部脱がなくていいよ」と止めたら、彼は「脱げって言ったじゃん」と言い返した。彼のマンガ的なルックスだけでなく、そういう、一見斜に構えてるけど、心の中では熱くてやる気が満ちているところも越前らしいなと思いました。

――そうして抜擢したキャストを交代するというのもテニミュの特徴です。

片岡:これもかなり激論がありました。折角ヒットした顔ぶれを変える不安はありましたが、長く同じ俳優が演じ続けていると、「このキャラクターにこの俳優」とイメージが固定化されてしまう。本来キャラクターがあって、それを俳優が演じるはずが、立場が逆転する恐れがあった。だから僕は早めに代えた方がいい、新しく俳優を育てていく方が長期的にはいいと考えて、初代のキャストは約1年半で卒業となりました。またテニミュでブレイクした彼らのために新しい舞台も作ろうと考えて、テニミュ以外の2.5次元舞台も展開を始めました。
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