上海から中国の新幹線に2時間乗れば着く浙江省の義烏(ぎう)は、中国で、いやいまや世界でも最大規模の日用品卸売市場がある。日本国内の100円ショップで売られる商品の多くも、ここで仕入れたもので、「100均グッズのふるさと」「聖地」と呼ばれてきた。そんな町を、中国メディアは最近、「国際政治の行方が分かる町」と、半分面白がりながら騒ぐようになってきた。欧米の動きの先行きが、義烏のビジネスの動向で占えるというのだ。
もう品切れなのに......
世界各国からバイヤーが集まる義烏。2018年のクリスマスに向けても、ここから欧米に、クリスマスツリーやクリスマス飾り、様々なプレゼント用品が大量に発送された。クリスマス需要が一段落したころ、ヨーロッパから急に、「黄色いベスト」の引き合いが増え始めた。だれも予想しないことだった。
ヨーロッパで路上作業者が着る黄色いベスト。それは、2018年11月、燃料税引き上げに端を発したフランス政府への抗議活動参加者のユニフォームになった。抗議活動はその後も毎週続き、パリでは車が燃やされたり、商店での略奪が起きたりした。「マクロン大統領辞任」も叫ばれた。そして、このベストの注文がいまも引きを切らないという。
経済誌「第一財経」は、「義烏では黄色いベストは既に品切れ。にもかかわらず、スウェーデンやチェコ、スイスからも新たな注文が次々に舞い込んでいる」「中国のネット民は、義烏を、インテリジェンスの世界での新たな注目株だと面白がっている」と伝えた。
「トランプ勝利」も予測
そもそも義烏と国際政治の相関性が指摘されたのは2015年の米国大統領選挙だった。選挙期間中、義烏が受注した旗やのぼりの注文は、トランプ陣営からのものがクリントン陣営より圧倒的に多かったという。そのあまりの勢いに義烏では「トランプ大統領誕生」を、開票半年前に予測する向きも多かった。
そして、今回の「黄色いベスト」の注文。パリで始まった時にはまだまだひ弱かった抗議の動きは、いまやしっかりしたものになった。その動きはベルギー、スイス、スウェーデン、ポーランド、英国に及び、さらにドイツやカナダにまで広がっている。黄色い潮のうねりは壮大になったといえる。
この先、どうなるか。それを知るには義烏に行って、黄色いベストの注文が、どの地域からどの程度来ているかを調べればよい。100均ショップの聖地が国際政治のバロメーターになるとは、だれも思い当たらなかったことだろうが。
(在北京ジャーナリスト 陳言)