「手のひら返し」では納得できるわけない
官民ファンドは第2次安倍晋三政権が発足した2012年以降、各省が競うように立ち上げ、現在14ファンドあるうち12ファンドが安倍政権下で誕生した。民間は融資しにくいが成長の見込める事業を発掘し、リスクマネーを供給して新産業を育てようという、アベノミクスの成長戦略の目玉だ。
特にJICは批判の多い官民ファンドを立て直す「切り札」と位置付けられた。経営難の企業の「救済色」が強いと批判を浴びた産業革新機構を改組して9月25日、国が95%を出資し、投資能力2兆円規模という国内最大の官民ファンドとして発足した。国際金融や投資のプロを集め、迅速な投資判断ができる体制作りを進めた。
特に報酬について、JICは固定給1500万円程度に、短期と長期の業績連動報酬を加え1億円超も可能とする報酬規定を10月の取締役会までに決定したが、このベースとなる案は経産省官房長が文書にして機構側に提示していた。ちなみに、前身の産業革新機構でも最大9000万円超となる報酬規定が容認されていたことが、その後、明らかになっている。
ところが、この高額報酬を朝日が11月上旬に報じると、世間の注目度が急にアップ。世耕弘成経産相は当初、「優秀な人材をしっかり確保するための一定の相場観はある」と容認する姿勢を示していたが、経産省から聞かされていなかった菅義偉官房長官が「1億円を超えるのは、まずい」と〝却下〟したとされる。これを受け、経産省がJICに報酬案の白紙撤回を申し入れ、最終的に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)理事長並みの3150万円に下げるよう提案した。田中社長も受け入れる姿勢だったというが、報酬以外に、JICの運営に経産省の関与を強める内容も併せて求めたことからJIC側が反発し、対立は決定的になった。
結局、田中社長が12月10日に記者会見し、報酬や運営体制など「経産省が事前に示した条件を後になって反故にした。信頼関係が築けない」と同省を批判。取締役9人の辞任を表明した。この中には、取締役会議長の坂根正弘・コマツ相談役もいた。経産省の審議会の委員をいくつも務める「経産省の身内」だったが、「民間」の立場で田中社長に同調した。経産省の「手のひら返し」には我慢がならなかったということだろう。