IPO(新規公開株)は上昇して始まるのが大半。大型上場といえども、初値で売れば利益を上げられるはず――。そんな個人投資家の期待は、あっという間に吹き飛んだ。
空前の大型案件として注目を集めた、ソフトバンクグループ(SBG)の通信子会社ソフトバンク(SB)の東京証券取引所第1部への株式上場。が、上場初日は公開価格(1500円)を大きく下回り、多くの個人投資家が大きな含み損を抱えるという散々なスタートになった。
「のんびり保有」でもいいはずなのに
とにかく買い手不在だった。1463円と公開価格を2.5%下回って寄り付いたあとはぐんぐんと値を下げ、1282円と14.5%下回る水準で取引を終えた。
今回、SBGはSB株の3分の1強を売り出した。公開価格をもとに算出した時価総額は7兆2000億円程度で、東証上場企業で7位の規模だったが、終わってみれば1兆円以上目減りし、6兆1000億円と10位の規模に落ちていた。翌日には1176円まで下落する場面もあった。
投資家にとって、最大の魅力は配当利回りの高さだろう。SBは純利益の85%をメドに株主に配当を支払う方針を掲げており、公開価格で計算した年間の予想配当利回りは5%。大型銘柄で予想配当銘柄が5%を超えるのは、日産自動車や日本たばこ産業、東京エレクトロンやキヤノンなど数えるほどしかない。
ライバルのNTTドコモやKDDIよりも高配当だ。長期にのんびり保有という戦略も成り立つ。だが上場2日目には、配当利回りが6%を超える水準まで売られる場面もあった。なぜか。
大きな理由は、上場直前にネガティブなニュースが相次ぎ、成長性に疑問符がついたことだろう。
ドコモ、KDDIに比べ高すぎる「PER」
12月6日、4時間半にわたり全国でSBの携帯電話がつながらなくなるという大規模な通信障害が起きた。スウェーデン通信機器大手、エリクソン社製の機器が原因だったが、通信が安定させるために想定以上の設備投資がかかるのではないかとの懸念が生じた。1万~2万件の解約も出たという。
中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)との関係が、3社の中で最も強いとされることも痛手だ。ファーウェイの孟晩舟最高財務責任者(CFO)が逮捕され、米中関係が悪化する中、日本政府は安全保障上の観点から、ファーウェイや中興通訊(ZTE)の製品を調達から外す方針を固めた。SBもそれに沿って対応する意向だ。次世代通信規格「5G」の開始を前に、設備投資計画が大きく狂う可能性がある。
もう一つ挙げるとすれば、公開価格の設定が高すぎたことだ。株価の割高・割安を測る予想株価収益率(PER、株価が1株当たり利益の何倍か)は約17倍で、ドコモ(約13倍)、KDDI(約10倍)を上回っていた。ドコモやKDDIよりも、明らかに高成長が見込めるならいいが、そうでなければ割高ということになる。
政府からの「値下げ圧力」、楽天の新規参入など、事業環境は厳しくなるばかり。いくら配当利回りが良くても、「公開価格割れ」は必然だったということか。通信業界の事業環境は厳しいだけに、公開価格を超えるのには時間がかかるかもしれない。