日本政府が国際捕鯨委員会(IWC)脱退を決めた背景には、IWCが「鯨類資源の適切な保存」と「捕鯨産業の秩序ある発展」の2つを目的にしているにもかかわらず、実態が前者に偏ったままで、日本と反捕鯨国との溝が埋まらなかったことにある。
脱退は、日本の領海や排他的経済水域(EEZ)での商業捕鯨に道が開くことになるが、IWC加盟を条件に許可されていた南極海での調査捕鯨の道は閉ざされることになる。日本政府は「我が国の立場を共有する国々との連携をさらに強化」していくことも表明。脱退前からくすぶっていた「第2のIWC」論が現実味を帯びてきそうだ。
IWCに残ったままでの「協議会」構想も
「第2のIWC」論は、古くて新しい問題だ。1993年に京都で開かれたIWC総会の際には、当時の日本代表が、仮に南極海にサンクチュアリ(捕獲対象外の保護区域)が設定されれば、
「(捕鯨国の)アイスランドやノルウェーと第2のIWCを結成するまでだ」
などと発言。田名部匡省農水相(当時)も、捕鯨と関係ない国が入って多数決で意思決定するIWCの運営に不満を表明し、脱退や「第2のIWC」設立を示唆。当時の報道によると、「協議会」という形ですでにIWCを脱退したアイスランドなどを取り込んで事実上の「第2のIWC」を立ち上げ、IWCに残って国際的な体面を保ちながらIWCに圧力をかける、という構想も浮上していた。
南極海のサンクチュアリは翌1994年に設置されたが、「第2のIWC」構想が本格化することはなかった。だが、脱退にともなって2018年12月26日に菅義偉官房長官が出した談話には
「水産資源の持続的な利用という我が国の立場を共有する国々との連携をさらに強化し、このような立場に対する国際社会の支持を拡大していくとともに、IWCが本来の機能を回復するよう取り組んでいきます」
とあり、議論が復活する可能性もありそうだ。