「40代で転職なんて...」と尻込んでしまう人もいるかもしれない。だが、人手不足が進む現代においては、現場のプレーヤーからマネジャーまで、40代の人材を求める企業は実は多い。
重要なのは、企業側が年齢を重ねている転職希望者の何を見ているかを知ることだ。J-CASTニュースは急成長中の転職エージェント「Spring転職エージェント」のトップ・板倉啓一郎氏にインタビュー。40代ならではの転職のポイントを聞くと、転職には失敗のリスクもあるが、この年代になると「転職しないリスク」もあるという。
アデコ執行役員・人財紹介事業本部長で「Spring転職エージェント」最高責任者の板倉啓一郎氏
「成し遂げたこと・スキル」「適応力」「貪欲さ」
Spring転職エージェントは、世界最大の人材サービス会社アデコ(本社・スイス)の日本法人が運営する転職サービスだ。特長は2つある。1つは、業種でなく職種ごとに部門を分けて専門性を高め、他では得られない深い情報を提供する「職種別専門性」の体制を構築していること。もう1つは、担当を企業側と人材側に分けず、すべてのコンサルタントが企業と転職希望者どちらともやり取りする「360度式コンサルティング」という人材紹介手法をとっていることだ。
今年1月に発表された最新のオリコン「顧客満足度ランキング」転職エージェント部門で、Spring転職エージェントは堂々の1位に輝いた。その立役者となったのが、今回話を聞いた板倉氏。Spring転職エージェントのトップに就任した2014年からの4年で、売上高は約4倍増というめざましい実績を挙げている。
板倉氏は40代の転職における基本を次のように語る。
「40代の人材は『今までに何を成し遂げたか、どういうスキルを持っているか』が問われます。また、それまで勤めていた会社のカルチャーに染まっている場合もあるので、転職先の企業での『適応力』も見られます。経験やスキルに長けていても、主張が強すぎたり、自分の考えに固執しすぎたりすると、敬遠されるかもしれません。何歳になっても成長していきたいという『貪欲さ』にも企業は注目しています。
『転職しないリスク』というものもあります。会社は終身雇用してまで、社員の面倒を見なくなってきています。もし定年まで働けると言われても、活躍できる環境にいられれば役職も給与も上がっていくと思いますが、役職も給与も上がらないということも十分に考えられます。そうなった時、そのまま我慢して同じ企業で働き続けるか、40代でまだ元気な今、リスクを覚悟で新天地を求めてチャレンジしてみるか――。どちらがいいというわけではなく、最後は自分の選択に委ねられます」
「転職経験のない人を警戒する企業が多くなっている」
初めての転職か、既に何度か転職しているかによっても、企業の見方が大きく変わってくるという。
「40代の場合、転職経験のない人を警戒する企業が多くなっているのです。長い期間ひとつの会社のカルチャーに染まっていると、新たな環境に合うよう自分を変えるのが難しいと思われるからです。逆に複数の会社を経験してきた人は、転職先の会社でも適応できたり、問題が起きた時の対応も臨機応変にできるだろう会社側は考えます。
転職を何回か経験した人は、様々な企業カルチャーの中にいたので、どういう企業ならば自分が活躍できるかという分析もできるようになってきます。逆に転職経験がゼロという人は、私たちのような転職エージェントにご相談いただければ、活躍できそうな企業を紹介するお手伝いができます」
「ラストチャンスだという覚悟をもって臨む」
板倉啓一郎氏が40代特有の転職のポイントについて語った
気になるのは40代という年齢的なリスクだ。若年層に比べて不利になる点はないのか。
「年齢のリスクはあります。年齢が上がれば上がるほど、今後の成長への期待値は低くなります。40代の転職はより慎重に、ラストチャンスだという覚悟をもって臨むべきでしょう。
一般的に20~30代と比較すると転職先が見つかりにくくなる傾向はありますが、それに加えて、プライベートの状況も考慮する必要が出てくるのがこの年代です。40代というと、子育てに最もお金がかかる時期である場合が多いと思います。そうした方にとって、転職で失敗したら大変なことになりますので、今の会社にそこまで大きな不満がないのであれば、そこに留まる方が良いのではないかとアドバイスすることもあります」
未経験の分野への転職は「お勧めしません」
リスクも大きくなる40代の転職だからこそ覚えておきたい注意点がある。板倉氏は、「40代の場合、あまり経験のない分野への転職はお勧めしません」と指摘する。
「転職先として考えている企業にも叩き上げの人達がたくさんいるので、その分野に初めて入っていった人がポジションを争うのは大変なことです。チャレンジしたい意欲があっても企業側は不安に思うでしょうし、そもそも採用されないことも多いです。
自己分析をすると、自分自身の『資産』、つまり積み上げてきた経験やスキルが分かるはずです。それを生かせる企業を慎重に選ばないと転職失敗のリスクは高くなります」
今までの経験が別の分野で生かせるという形でアピールしても受け入れられないのだろうか。
「もちろん中には業種が違っても、仕事の進め方などの面で経験が生きる場合はあります。または、企業の方針転換などの事情があって、異業種の知見を持つ人材を求めるところもあります。こうした企業ならば異分野でも活路はあるでしょう。しかし一般論で言うと、40代での経験のない仕事分野への挑戦は非常にリスクが高い、ということを忘れてはいけません」
注意したい「勘違い」
年齢を重ねたからこそ「勘違い」しがちな注意点もある。
「ひとつの会社に長い間勤めると給与もそれなりに高くなりがちですが、それ自体を自分のバリューだと思ってアピールする人がいます。勤務期間に比例しての給与の上昇を、すべて自分の実力だと思い、他社でも評価されると思い込んでしまう。こういった勘違いをしないように注意が必要です。
以前の会社で、今まで自分が何を成し遂げてきたか、どんな強みがあって、次の会社でどう生かせるのかを整理しないといけません。将来へのポテンシャルより、現在までの実績の方が重視されます」
「誰しもアピールできる強みは持っています」
インタビューに応じる板倉啓一郎氏
強みが大事と言われても、「一体自分は何をアピールすればいいのだろうか」「積み重ねてきたものがあるのか」と不安に思ってしまう人もいるだろう。だが板倉氏は、「誰しもアピールできる強みは持っています」と断言する。
「転職エージェントをしてきた経験上、カウンセリングをすると、本人が気づいていなかった特長が見つかることは少なくありません。逆に、本人は『弱み』だと思っていたことでも、見方を変えれば『強み』になり得ることもあります。
たとえば、何でも主張する人ばかりが集まったら、会社をマネジメントする側からすると困ってしまうこともあります。全員がリーダーシップを持っている必要はなくて、組織が決めたことを継続的に実行できる人材が求められることもあるのです。
コミュニケーション能力も、必ずしも優れていなくてよい場合があります。多少コミュニケーション能力が低くても、冷静で細かな分析ができて、高度なアウトプットをできる人材なら求める企業はあります。
自己分析していくと、活躍できる企業やポジションがあることに気づくと思います。気づかない場合は、我々のような転職エージェントに相談してもらうと見出せることもあるはずです」
「転職はキャリア・アップのオプションとして活用していくもの」
ここまで4回に渡って、転職市場の動向や、転職のポイントを聞いてきた。板倉氏の話から浮かび上がるのは、転職がほとんどネガティブなものではなくなっていること、そして転職に一定のリスクはあっても、自己分析をして臨めば希望の仕事に就ける可能性が限りなく高まるということだ。最後に板倉氏に、転職とは何なのか、改めて尋ねた。
「転職はキャリア・アップのオプションとして活用していくものです。人材のモビリティが高まれば適材適所が進み、経済全体も上向くでしょう。その意味で転職市場が活性化するのは、働く人にとっても社会にとってもプラスだと考えています。私たち転職エージェントは、理想の仕事に就くために最大限の協力をいたしますので、是非ご活用いただければと思います」
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