「史上最大」と、鳴り物入りで株式を新規上場(IPO)した通信大手のソフトバンクの株価が冴えず、個人投資家らから不評を買っている。
過去の事例から、有名企業が新規上場する場合、初値が公募価格を上回るケースは少なくない。ところが、2018年12月19日にソフトバンク株が東京証券取引所第1部に上場すると、1株1500円の公募価格に対して、初値は1463円。終値はさらに下落して公募価格と比べて14.5%も低い1282円の低調なスタートとなった。
「いつ売ったらいいか教えてくれ」
新規上場の祝福ムードが吹き飛んだ。ツイッターや株式投資のまとめサイトなどに寄せられた個人投資家らの声は、
「docomoやauと比べて通信の脆弱性とか、指摘されていたからな。直前に通信障害起こしたし、まあ妥当じゃね」
「マネー誌で『買い』って書いてあったじゃん。耳障りのいいことばかり言いやがって」
「やっぱな。むしろ、これから買いだろw」
「もういい。いつ売ったらいいか教えてくれ」
などと、もう「売ること」を検討する声も少なくなく、個人投資家にとっては胃が痛むコメントばかりが目につく。
その一方で、
「配当性向を高めて、個人に買ってもらおうとしたんだな。でも、利益が減れば配当額も減る。将来像を見せてくれないと。現状では株価はまだ下がるな」
「IPOに応じれば、ほぼ確実に儲かると安易に考えてた人が孫さんに損させられたわけw。しかし、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)を見ると、やっぱ(公募価格の1500円)高すぎでしょ。そこに地合いの悪さが加わっては買えないな」
と、冷静に分析する個人投資家も少なくない。
ソフトバンクの宮内謙社長は上場当日、公開価格について「配当性向85%、配当利回り5%をきちんと示すことが重要という引き受け証券会社のアドバイスを受けて(1500円)設定した」と説明した。
SBGは約2兆6000億円を調達
ソフトバンク株は、ソフトバンクグループ(SBG)傘下の、いわゆる「親子上場」。新規上場に伴い、株式を売却したSBGは史上最大となる約2兆6000億円を市場から調達。18年6月のSBGの株主総会で、孫正義会長兼社長はソフトバンクの上場について、「ソフトバンクを上場して経営の独立性を高める。上場による資金を活用して『本来の姿』である、投資会社としてSBGの運営を推進する」と、その理由を説明した。
SBGを純粋な投資会社として運営していくというワケだ。孫社長はここ数年、世界各国の人工知能(AI)向けの投資を積極化している。さまざまな企業でグループを構成しながら、「300年続く企業体」を目指している。孫社長はソフトバンクの上場で得られる資金を通信事業の整備のほか、その多くをAIなどの「次世代ファンド」に投資する考えのようだ。
その一方で、上場を果たしたソフトバンクの事業環境は、なかなか厳しい。「格安ケータイ」の普及や楽天の参入による競争激化に加えて、2018年8月には菅義偉官房長官が「携帯電話料金は今より4割程度下げられる」と発言。政府からの料金の値下げ要請で、今後は収益が圧迫される可能性がある。
さらに、12月6日夕方に起こった大規模な通信障害や、米中の貿易摩擦がからむ中国・ファーウェイ問題といったネガティブ要因が発生。なかでもファーウェイ問題は、日本政府も米国に呼応し、本格的に「ファーウェイ排除」に乗り出すとみられる。
ソフトバンクの宮内謙社長は、上場初日(12月19日)の株価下落について「残念」と、言う。ただ、「(ネガティブ要因が続々噴出したが)上場の先送りはまったく頭になかった。厳しい環境での船出となったが、気持ちを引き締めていく」と、強調した。
上場結果は孫社長が「一番よくわかってた」?
とはいえ、こうも「逆風」案件が多いと、手が出しづらいことは確か。そもそも、上場企業の中で「親子上場」するケースはないわけではないが、最近は「あまり流行らない」。
親子上場によって、ソフトバンクの独立性は高まるが、一時的に営業力の低下や管理コストの増加が見込まれるうえ、親会社の影響力が残るので、SBGの利益が優先される恐れがある。そうなると、投資家にとっても、子会社株主の利益が侵害される恐れがあるからだ。
そもそも、孫社長は約17兆円(2017年度末)の有利子負債を抱え込みながら、さまざまな通信事業者のM&A(企業の合併・買収)を繰り返しながらSBGを成長させてきた「投資家」でもある。もしかしたら、通信事業を「一丁上がり」(成長力が頭打ち)と判断したのではないか。
ある個人投資家は、
「上場の結果は孫さんが一番よくわかってたんじゃないかな」
と、漏らした。