アイスホッケー界に衝撃が走った。日本製紙は2018年12月19日、収益悪化のため、同社のアイスホッケー部「日本製紙クレインズ」を今季限りで廃部すると発表した。
実業団アイスホッケーをめぐっては、同じ製紙業界の王子ホールディングス(HD)も社会人チーム「王子イーグルス」(本拠地:北海道苫小牧市)を持つ。SNS上ではファンから存続を危惧する声が多数寄せられている。
「デジタル化」「ペーパーレス化」の余波
日本製紙クレインズは、1949年に旧十条製紙が設立した。79年に日本リーグに加盟し、アジアリーグを4度制した強豪だ。
日本製紙のチーム担当者は19日、J-CASTニュースの取材に「用紙事業が落ち込み続けていることもあり、断腸の思いで決断いたしました」と苦しい心境を吐露する。
同社の2019年3月期中間決算(18年4~9月)では、売上高5255億円(前期比2.3%増)と増収だったが、純利益は60億円の赤字(前期は51億円の黒字)に落ち込んだ。デジタル化やペーパーレス化の波で新聞の発行部数減や印刷用紙の需要が低迷し、「紙事業」で苦戦したためだ。
廃部発表のリリースでは、今後はパッケージやケミカルなど成長分野に経営資源をシフトすると明かしている。
対照的な業績の王子HD
アイスホッケー界では、古河電工、雪印、西武などが次々撤退しており、04年まで存続した日本リーグの時代から活動するのは王子イーグルスのみ。1926年に社員による「同好会」として誕生してから、90年以上の歴史を持つ。
外部環境が厳しい製紙業界。母体の王子HDも収益安定の面で不安視されるが、足元の業績は日本製紙と対照的だ。
2019年3月期中間決算では、売上が7618億円(同6.1%増)、純利益が267億円(前期比62%増)と増収増益。王子HDは、ネット通販などによる段ボールの需要増拡大を取り込み、2019年3月期の段ボールなど「生活産業資材」の売上は6900億円を見込む。
同社では、2011年にマレーシアの企業から段ボール加工事業を買収して以降、積極的に段ボール関連の事業に投資している。好調が続く東南アジアや日本では、段ボールの新工場建設も予定している。一方、新聞用紙や印刷用紙など「印刷情報メディア」事業は生産体制の見直しによるコストダウンを進めている。
王子HD取締役で王子イーグルスの武田芳明オーナーは、取材に「王子イーグルスを廃部する予定はないです。環境の許す限り、アイスホッケーを守っていきたい」と話す。
一方で、「私どもは民間企業なので、やりたいという思いだけでずっと続けられるわけではない」と苦悩も明かす。チーム運営費の半分以上は王子HDが負担し、残りは入場料やスポンサー費を充てているという。
「アイスホッケーの人気が落ちているのは間違いないですが、観戦すると大変面白いスポーツです。最近、試合のネット配信も始めたので、ぜひ一度観ていただければと思います」(武田オーナー)
(J-CASTニュース編集部 谷本陵)