「空いている席に座っていただけますか?」
係員からこう声をかけられたのは、被告側代理人の唐澤貴洋弁護士だった。
傍聴席は立ち見NGだ。弁護士といえども、自身の裁判が始まるまで、どこかに座っていなくてはならない。ところが、一介の民事訴訟にもかかわらず、傍聴席はほぼ満員なのである。唐澤氏も困った様子だったが、結局金髪の男性の隣に腰を下ろした。この金髪の男性というのは、ITジャーナリストの津田大介氏である。
傍聴席には同業者が
2018年12月17日、東京地裁。原告は作家・投資家の山本一郎氏。被告は、カドカワとその川上量生(のぶお)社長。そしてその被告側代理人に唐澤弁護士。
裁判の詳細は、山本氏や川上氏らのブログ、あるいはほかのサイトの記事を読んでほしい。ネット業界注目の裁判はこの日、第1回口頭弁論期日を迎えた。
12時40分過ぎ。開廷30分前というのに、705号法廷の前には、すでに行列ができていた。傍聴を希望する人たちだ。その最後尾に加わると、まもなく別のネットニュースで働く、顔見知りの記者がやってきた。
「書くんですか?」
いやあ、とにかく傍聴してみようかと――。そんな雑談をしているうちに、法廷の扉が開く。傍聴は早い者勝ちだ。あっという間に席は埋まっていく。
「J-CASTさんも来たんですね」
もう一人、さらにほかのネットニュースの記者が顔を見せる。こんなに同業者が集まる裁判はなかなかあるまい。そんなことを考えているうち、今度は津田氏がやってきた。
傍聴席で『炎上弁護士』を読む青年
傍聴人は、ほぼ全員が男性だ。しかも若い人が多い。怪訝に思いつつ見回すと、先週発売されたばかりの『炎上弁護士』(日本実業出版社)を読む青年が目に留まった。唐澤弁護士の著書だ。
そうして13時25分、ようやく口頭弁論が始まった。原告側には、スーツにリュックを担いでやってきた山本氏と弁護士。被告側には、唐澤氏と関係者らしき男性。傍聴人たちも身を乗り出し、ペンとメモ帳を手にする。
「裁判所の都合を言わせてもらうと、1月ならこの日が......」
「××日は午後イチで予定が入っているので......」
そして口頭弁論は、あっさり終わった。原告側の山本氏、被告側の唐澤氏ともにほとんど発言はなく、ほとんどは今後の進行に向けた事務的なやり取りだ。
終了と同時に、当事者と傍聴人が、どっと法廷を後にした。ちょうどやってきたエレベーターには、山本氏をはじめ、唐澤氏、そして彼目当てらしき若い傍聴者まで次々乗り込み、すし詰め状態に。ぎゅうぎゅうの目に遭いながら、唐澤氏は苦笑していた。