ロープウエー公約が「計算通り」だった理由
―― 博多港のウォーターフロント(WF)地区では再整備の計画が進んでいます。
高島:WF地区の再整備では、単に高島が「今からマリンメッセ福岡の前にもう一個マリンメッセをつくります。福岡サンパレスホールをなくしてその斜めの所にもう一個新しくホールつくります、福岡市民会館を建て替えて、今は大きなホール一つのところを大・中・小をつくります」と言っただけでは、「なんという再開発好きな、ハコモノ市長か」ってなりますよ。でもそれを言われずに最多得票で再選できたのはなぜかと言うと、こういった再開発の必要性が可視化されて、市民の皆さんの納得感があったからです。一時的な成長痛が可視化されている状況があるからこそ、次の福岡を描けるわけです。
―― WF地区以外にも、天神地区で24年末までにビル30棟を建て替えて店舗やオフィスの面積を増やす「天神ビッグバン」構想が進んでいます。こういった構想が成長痛をなくすための施策だと思いますが、先日の市長選では天神ビッグバン自体は争点になりませんでした。合意が得られているように見えます。唯一の対立候補だった共産党系の候補者が争点のひとつとして挙げたのは、博多駅とWF地区をロープウエーで結ぶ構想でした。
高島:実はロープウエーは、あえて公約に入れました。実は1年くらい前から有識者の中でずっと検討してもらっていたのですが、市民のほとんどが知りません。そこで公約に入れることで議論が起きるわけですね。そうすると「そもそもなぜ必要なんだ。なぜロープウエーなのか。そんなことするなら福祉に使え」という計算通りの議論が出てくるわけですね。そうしたときに「なぜ必要なのか。なぜその目的達成のための比較優位性がロープウエーにはあるのか。そして本当にそのお金はいくらかかるのか。それをしなかったら福祉が充実できるのか」ということを説明していけばいい。それと同時に、交通という街づくりを、皆が他人事じゃなくて考えるきっかけになるんですね。
―― 議論を喚起するために公約に入れた、ということですか。
高島: 福岡には、例えば「どうして一番人が来るヤフオクドームに地下鉄が通ってないのか」とか、色んな「交通なぜなぜ」がありますよね。今回のロープウエーの件にしても「どうしてそれが必要なのか」ということを、決まる前に問題提起することで議論が起きます。そこで聞く準備ができた人に対して必要な情報を伝えると、すっと浸透していくんです。そうでない段階で情報を伝えても、誰の耳にも入っていきません。先ほどお話ししたように、WF地区の再整備が進めば、とてつもない滞留人口になるわけですね。今ですらコンサートが1個終わったら外に出られないくらい渋滞しているのに、さらに人が来たときどうなってしまうのか。地下鉄を掘ることもできますが、費用はロープウエーの7倍かかる。それでビーバイシー(B/C = 費用対効果)が取れるのか。LRT(次世代型路面交通電車システム)やBRT(バス高速輸送システム)は、今でさえ大混雑している中でどうやって専用レーンを置くのか。モノレールは車両基地が必要...、みんなの疑問が高まっている中で、今のような有識者の議論を踏まえて説明をしていけば、腑に落ちるわけですね。