2018年12月初め、米中間の貿易戦争休戦が決まり、中国側は総じてひと安心した。それも束の間、12月6日、中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟・副会長兼最高財務責任者(CFO)がカナダで逮捕され、続いて米スタンフォード大学の張首晟教授が自殺したニュースが伝えられると、中国のネット世論はまたたく間に大揺れになった。ファーウェイが強い第5世代移動通信(5G)を中心とした対中封じ込めに向けて、米国は手段を択ばなくなったという意見がネット上で沸騰している。
逮捕は挑発?
日本の大企業経営者の多くが60歳以上なのと違って孟氏は1972年生まれ。70年代生まれの大企業トップは中国で一般的な現象ながら、孟氏は他のトップと違って、ファーウェイ創業者、任正非・最高経営責任者(CEO)の娘。大学卒業後、父の会社に入り、タイピストや電話交換の仕事から始め、父と共にファーウェイを築いてきた。
報道によれば、カナダ当局が孟氏を逮捕した理由は「対イラン制裁に違反した」というもので、身柄を米国に引き渡す可能性もあるという。だが容疑の詳細は明らかにされておらず、逮捕は挑発のように見える。
中国外務省スポークスマンは、ただちに声明を出し、孟氏の即時釈放や正当な権利を守るよう強い調子で要求した。孟氏逮捕の衝撃度を、もちろん外務省も十分理解しているのだ。
片や、日本メディアはあまり報道していないが、中国のネット上では、孟氏逮捕のニュースと共に、12月1日に米スタンフォード大学の張首晟教授が大学構内で飛び降り自殺したことも大きな話題を呼んでいる。
将来のノーベル賞候補が......
1963年生まれの張教授は、15歳で上海の名門、復旦大学物理系に入学した天才児だった。大学2年でドイツに留学し、その後米国で物理学博士号を取得。32歳で早くもスタンフォードの物理学終身教授の地位に。トポロジカル絶縁体と量子スピンホール効果で画期的な成果をあげ、将来のノーベル賞受賞の有力候補と目されていた。
1999年には、理科系の最高峰、清華大学(北京)高等研究院の招へい教授となった後は、中国の名門大学、企業、政府との関係は非常に緊密となり、中国の半導体産業発展のために、学術的観点から重要なアドバイスを続けていたとされる。
それが、特に兆候がなかったのに、突然の自殺。それは、5G時代に向けて一層の技術革新が必要な半導体分野での貴重な頭脳を、中国が失ったことを意味する。このため、中国のネット界は孟氏逮捕と張氏自殺とを、米国の「陰謀論」で結びつけて語る論調が花盛りとなったのだ。
トランプ大統領は、今年8月、政府などと取引する企業にファーウェイなどの機器利用を禁じる国防権限法を成立させた。それ以前にも4月には通信機器大手、中興通訊(ZTE)に、米企業との取引を禁じる制裁を科し、事業を続けられなくした。中国封じ込めといえる流れが続いた年の終わりの、慌ただしい動き。中国のネット上で、「陰謀論」が収まる気配は見えない。
(在北京ジャーナリスト 陳言)